ほっこり京都人(2)

《ここで京都人の典型的な実話を先ず一つ》

田上さん(仮称)は、京都生まれで京都育ち。大学も同志社。勤務先も京都。
その田上さんが栄転をし、東京の支店長として赴任しました。
つまり、当時40歳(昭和12年生まれ)で生まれて初めて京都を離れたわけです。


着任早々、新任挨拶まわりで主要な顧客を訪問。色々な組織の会長宅も訪問。
会長宅では「まァまァ、あがってお茶でも一杯飲んでいって下さい」と言って応接間に通そうとします。

でも、支店長さん、玄関の敷居をまたごうとはしません。
この調子で、都内の幾つもの顧客宅を訪問したのですからね。

着任早々、「あんな非常識な支店長とは付きあわない!」と非難ごうごう。
社長宛に、巻紙のお手紙で支店長交代を申し入れた会長さんもおったそうです。



実は、京都では、ご存知の方も多いと思いますが。

「何もあらしまひんが、ぶぶ漬け(お茶漬け)でも食べていっておくれやす」
と言ったら、「こんな時間に来るなんて非常識。早く帰れ!」と言う意味。実に婉曲ですね。

「お茶でもおひとつ、(家の中に)あがっておくれやす」も、ほぼ同じ。
こう言われたら、玄関先で、早々においとましなければならないのです。


言われて、はいそうですかとあがりでもしたら、きっちり陰口。

「ほんにけったいなお方」や「なんぎなお方」「えらいお方どすなぁ」なら未だまし。
「えずくろしい」(ムカツク)とでも言われたら最悪!!


田上支店長は、東京で、まさに京都人を実践したのです。
細目のド近眼で、根も実態も真面目な男でしたからね。



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