突然の北海道転勤要請でしたね

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これまでのあらすじ)
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私、㈱ウズマサ係長から一転して新設中国メンテナンス・ウズマサ㈱の常務として広島へ。
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着任二年目の夏から順調に推移。秋には、翌年三月の二期目の決算を大幅な黒字に出来る見通しが経った事が油断の元。
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社員にICチップを使用した電子機器を取り扱わせようと、販売経験の無い機器を仕入れてしまいました。

以下、その機器が、未だ一台も売れていない12月初めのこと。

私の履歴書・229

1986年12月第一週の金曜日午後一時。

グループ総帥・太秦社長のもと、メンテナンスグループ五社の定例役員会議が行われました。
それが終ってから、太秦社長は退席し、役員同士の会議に入りました。

間も無く、太秦社長秘書が会議中の私の席に来てそっとささやきました。

「水無瀬常務、太秦社長がお呼びです。直ぐに社長室に入って下さい」
「未だ会議は終っていませんが?」

「その会議には、もう出席しなくて結構ですから」
「???????」

秘書に導かれて社長室に入りました。
社長室の広さは約20坪(66㎡)。長方形の部屋の向こうに社長のデスク。

そのデスクの前から縦につながる応接用低いテーブルが六つ。
テーブルの片側には12個の肘掛応接椅子が並ぶ。これが両側で計24席。

その真ん中に太秦社長は座りました。

「水無瀬君、まあ、そこに座ってくれたまえ」
「はい」

一瞬、緊張。
何事だろう?

「水無瀬君、君には是非北海道に行って欲しいのだか?」
「北海道ですって? 出張目的は何なのですか?」

「出張じゃない。北海道で仕事をして欲しいのだが」
「それじゃ、今の広島を離れてですか?」

「そうだ! 今まで北海道は、どうしてもうまくいってない。
君が行って是非建て直して欲しいのだ!」

「広島で未だ1年と8ヶ月。まだまだやらなければならない事が沢山残っているのですが?」
「それは分かっている。にも拘らずと言う事だ」

「北海道の子会社といいますと、かって岡田課長の他に本社から経理課長が出向していましたね」
「彼等では駄目だったと言う事だ」

「分かりました。北海道に行きます」

「おいおい、そんなに簡単に返事をするな。
君の奥さんと今夜話し合って結論を聞かせてくれ」

「それは問題御座いません。妻も賛成するでしょう。
処で、北海道で私は何をどうするのですか?」

太秦社長は、立ち上がり、窓際で後ろ手をしながら話し続けました。

「かって、道内シェア80%。全ての街や通りの商店は我社の色に染まっていた! 処が今や10%台」

一呼吸おいて、
「機器の販売での建て直しは無理だから、メンテナンスを基調に黒字体制にすることだ!」

「現在の子会社で指揮をとるのですね」
「そうじゃない。子会社は解散して、㈱ウズマサの札幌営業所を新設し、その所長として行くのだ」

「解散ですか???」
「色々な事情があってそうなのだよ。この辺の詳細は池内室長に聞くがよい」

「分かりました。通常の手段で業績を上げることは困難なのですね。
そういう状況でしたら、私、かなりの覚悟が必要ですね」
「そうだ!」

太秦社長! お願いが御座います」
「何だ?」

「社長のそのネクタイピンを私にくださいませんか? 
それがありましたら、大変心強く北海道で仕事が出来ますが」

そのネクイタイピンとはトルコ石。尋常な大きさどころではない。
恐らく50万円~70万円はするだろう。

社長は苦笑しながら、くるりと背を向けて窓から外を観ている。

「処で、私の後任は誰なのですか?」
「辰巳君だよ」

「辰巳さんて、ひょっとして福岡の支店長?」
「そうだ! 君の後を辰巳君にやってもらう。引継ぎはちゃんとやってくれたまえ」

「驚きました! 私の後任が辰巳支店長とは。6~7年前、私の上司でした」

「そうだったね。北海道の詳しい状況は、池内室長に聞いてくれ。
今から室長に電話を入れておくから、直ぐに室長室に入ってくれたまえ」

「分かりました。早速池内室長とお会いします」

そう言って腰を浮かそうとした時、
「そうそう、君を北海道に行かせることに、全役員が反対したのだよ」

「またですか?」
「君に北海道の商業組合を任せたら、直ぐにケンカをするから任せられないと」

「ひょっとして、その言葉は青葉常務じゃないですか?」
「そうだ!」


「社長、それは、こういうことだったのですよ。
青葉支店長が何年通っても落とせない墨田・江東商業組合のことです。

我社がはじかれて参加出来ない展示会の前夜、私が偶然ここの会長宅を訪問することになったのです。


「それでどうなったの?」
「翌日の展示会に参加出来るようになりまして、そこで我社が72台の受注。
G社が二十数台、M社K社が各々数台で、我社が圧勝となりました」

「その話は、初耳」

「その販売実績は、私でなくて、その組合担当者になりましたから。
確か担当課長は、北海道から転勤してきた藤木課長でした。
然し、あの時の会長の息子夫婦は、顔面蒼白、わなわなと震えていましたね」

「そうだったのか」


一呼吸おいて続けて

「青葉常務が東京支店長時代、私が商業組合会長と直接会ったのは、この二人だけです。
何れの場合も青葉常務が何年かかっても落とせなかった組合ですね」

「あはは」

「それじゃ、私、これから池内室長に会いに行きます」
「そうしてくれ給え」