❽人望に潜む危険


企業は社員の何をどう評価するのか。それは企業によって、或いはトップや上司によって千差万別です。但し、『出過ぎる杭は打たれる』ことは共通でしょう。

(今回の最初の記事)
❶下請け火事による正念場 2017/11/7(火)
(中略)
❼全員輝いた夜明け前 2017/11/14(火) 


❽人望に潜む危険

(本文)
未明、岐阜の養老の滝の下請け工場を出発。途中、前夜の夕食、兼、朝食を途中でとり、午前8時前には本社工場事務所に着きました。

伊田課長の開口一番。
「水無瀬部長、私たちの製造部長になってくれませんか?」

一つ年上の伊田課長との関係では、それまでの何年間、新製品開発や製品改良会議の席上、「それは無理だ。」とか、「それは出来ない。」と言う彼を激しく罵倒と叱責を繰り返しており、その都度、私がテーブルを拳でドスンと叩くものですから、アルミの灰皿は、都度、30cmは飛び上がりました。

その彼が言うのですから大笑いしました。
私、「冗談でもそんなことを言ったら、あなたの上司は激怒するぞ。」。そして、「そういう人事に関して口に出したら、しっぺ返しを食らうぞ。二度と言わないことだ。」

私は始業前に吉田専務室を伊田課長と共に訪問し、「今回の東大阪の火事でご心配かけましたが、下請けの皆様の協力により、ほぼ予定通り3月に頭出し(完成品の一部出荷)が出来るようになりました。詳細は伊田課長にお聞きください。私は東京で仕事が待っていますから直ぐに新幹線に乗ります。」と報告し、直ぐに運転手にお願いし、駅まで送ってもらいました。

それから数日後、伊田課長からの電話の最後に、またまた、「水無瀬部長、製造部長になって下さい。」と繰り返すのです。

月末近くとなり、本社から東京事務所に出張してきた製造部の主任が私に声をかけてきました。「水無瀬部長、先日の下請け回りのこと、伊田課長から聞きました。是非、製造部の部長でお願いします。」

これは拙(まず)いことになった! 私は即座に伊田課長へ私のことに関しての公言を止めるように電話で言いましたが、もう遅かったのです。

月末、営業本部会議で京都本社に出張した際、本社社屋で工場の人たちと擦れ違う時、私にうやうやしく一礼するのです。これまでは無かった現象でした。

ちょっとした用事で工場事務所に伺うと、全員、笑顔で迎えてくれ、中には「次期製造部長。」と声をかける人もいました。

製造部の私より三歳年長の横田総務課長が私にささやきました。
「ミナ(水無)ちゃん、皆、待望論で盛り上がっていますよ。」と。

ここまで騒がれていたのか。
これは大変なことになる。
私の身に、近々、何かが起きる。
それも、マイナスなことが。

      つづく

(続編)

私の履歴書50代東京編目次』