妻を裏切れない本当の理由

 
 
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    私の履歴書365
 
次に北見に出張した時ですね。
 
その前日、塚本君に伊織さんの夫から再度電話があったそうです。
 
「伊織さんを退職させる」とのこと。
間も無く、夫が『退職願い』を持参して旭川事務所を訪れました。
斎木君は、直ぐに新たなパート事務員を採用し、事務引継ぎを始めました。
半月後、事務引継ぎを終えた伊織さん(彼女)は、退職しました。
 
寂しい気持ちでしたね。
思い出すと、胸が痛くなりましたね。
 
 
 
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その後、北見の塚本君に入った情報では、
『彼女は自宅で外から鍵をかけられ、電話器も外され、一種の軟禁状態』
 
これを聞いた親戚の一同は集り、皆、夫を叱ったそうです。
「女房を可愛がらずにほっとくからだ! 女房が他の男に惚れるのは!」
 
その時でも彼女は終日泣き通していたとか。
その話を聞くだけで、辛かったですね。自責の念にかられて。
 
 
 
この事を、改めて妻に話した数日後、新たによそよそしい妻の態度。
 
「何かあったな?」
「何もありません」
「いや、何かがあった」
「何もありません」
 
私は、彼女の主人が、我家に電話を掛けてきたものと思いました。
いつかは、こうなるだろうと思っていましたから。
 
 
「彼女のことで、君は重大な勘違いをしている。
彼女と身体の関係があったと思いながら話したら、とんでもないことになる。
 
もう一度言う。私と彼女は、確かに車の中で夜を明かしたし、深夜の温泉ホテルの部屋で抱き合ったが、それ以上のことは無かったのだよ」
 
 
確かに妻に告白してからも、何度も旭川に出張している。
妻がその度、彼女と私が逢引(あいびき)したと思っても不思議ではない。
 
 
「自然と身体を求めた。でも、そうは出来ない特殊な状況が彼女側にあったのだよ。普通の人では想像出来ないことだけど」
 
 
実は、そういう関係になる事が不可能だったのです。
疲労困憊(こんぱい)で睡魔に襲われ、眠ってしまったのは確かですが。
 
私は、彼女と抱き合った時の状況を事細かく妻に話しました。
そして、何故人妻でありながら家を空けられるのかを。
そして、何故彼女が今も泣き続けているのかも話しました。
 
 
妻は驚きました。
信じられないという顔をして。
 
重苦しく無言の時が過ぎていきました。
私は次の妻の言葉を待ちました。
 
 留萌慕情(10)


※ 私の履歴書・366 届かなかった妻の手紙   留萌慕情(11)
 思い余った妻は、伊織さん宛に手紙を出す。その手紙を回収せねば

※ 留萌慕情 目次 

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