二人で会えた最後の夜

 
 
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    私の履歴書362
 
其の日の昼、斎木君が旭川ワシントンホテルに迎えに来て、旭川事務所に入りました。
 
「いらっしゃい。水無瀬所長」
何事も無かったように微笑む伊織さん。
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伊織さんは、定刻9時に出社していました。
私は、一瞬、昨夜からの出来事は白昼夢かと思いましたね。
 
● 雪降る旭川の街を相合傘(あいあいがさ)で、気分は恋人同士。
● 留萌の黄金海岸の小さな公園で、濡れた小さなその唇。
● 旭川の街を見下ろす丘の中腹で夜明け前の微光。
● 旭川ワシントンホテルの玄関前の車の中で起されたこと。
 
 
札幌に帰って数日後、伊織さんから電話。
「所長、今度は、いつ二人で会える?」
 
以後、何度か旭川に出張しましたが、二人で会える時間はとれない。
札幌で受ける電話の向こうでは、いつも涙声。
 
  
2月、旭川の社内会議を、いつもの温泉ホテルで開きました
この時は、層雲峡プリンスホテル朝陽亭だったと思います。
 
旭川の他に、北見の塚本君も参加させました。
午後からの会議の後の夕食は、いつものミニ宴会。
 
9時半頃、一人で大浴場へ。
平日のこの時間ですから、入浴客は私一人。
 
眠い、眠い。
 
お湯が浴槽から溢れ出るタイルの上にちょっと横になりました。
 
そういえば、こんな風に寝たことがある。
風呂桶を枕にしていたら、そのまま眠ってしまいました。
 
何か、騒がしい?
私を探しに来た部下が、私の裸の寝姿を見て引き返していきました。
そのまま眠るも、やはり長時間、裸でタイルの上では痛くて目が覚める。
 
11時頃でしょうね。
しまった! 夜の10時に伊織さんの部屋に行くことにしていたのだ!
 
伊織さんの部屋をトントンし、開けてもらい、中に入りました。
畳の部屋、布団が開いています。
横になっていたのでしょう。
 
「まあ、今までどこにいたの?」
「すまん、すまん」
 
暖かいままの布団の中に崩れた私。
直ぐに眠ってしまいました。
 
「所長!起きて!」
伊織さんが、私の身体を揺り動かします。
 
目覚める時、自分のいびきの大きさに驚きました。
「皆、所長を探しています。そのいびきでは廊下に響きますわ」
 
扉の向こうには、確かに連中の声。
「所長は、何処にいるのだろう?」
「何処かに倒れているのかも」
 
連中は、廊下をうろうろしています。
これは拙い(まずい)
 
連中の声が遠くに消えるのを待ち、伊織さんが扉を開けて周囲を確認。
「所長、今ですよ」
 
浴衣姿の私は、タオルを肩にかけ、ゆっくり歩いて本来の私の部屋に戻りました。
連中には「階段で眠ってしまった」と言い訳して。
 
 
 
まさか、これが伊織さんとの二人きりで会う最後となるとは思いもしませんでしたね。
 
 
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当時、私は何故にこんなに眠かったのか?
眠くて当然でした。
 
睡魔原因は三つ。
 
内、一つには「世子と亜子」がありました。
これでの睡眠不足の事は、以前の記事(297~299)で書いていますね。
 
 
残る二つの原因は後日。
 
                                   留萌慕情(7)