あの橋の袂で

 
 
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       私の履歴書・355
 
この『南19条大橋』に関して、思い出せる事が二つあります。
 
「誰かいつも空いている歯医者を知らないかね?」と聞きましたら、近所の5軒の歯医者は全部混んで長いこと待たされるという。
 
但し、一軒だけ常時空いている歯医者があると並河君が言います。
何人かが「あそこはヤブらしいよ」「痛いらしいよ」とはやし立てます。
 
場所は南19条大橋の近くの路地。
待ち時間が長いのよりも、痛くても、短時間で終える方がまし。
早速電話予約をし、車でその歯医者に行きました。
 
「前歯を二本抜いて、入れ歯を作ってくれ」
当時、歯医者は60歳過ぎでしたね。
 
「麻酔の使用料は最小限にしている。麻酔は身体に悪いから」とか、被せ物に関してのご高説を聞かされた後、あっと言う間に二本抜きましたね。
 
鮮やかなもの。
何故にこれがヤブか!
 
ついでに奥歯二本を治療し、被せ物をしてもらいました。
一回の歯医者滞在時間が10分。合計4回(5回?)で全て完了。
 
この話を事務所内でしましたら、三人がこの歯医者に鞍替え。
痛いという程度ではないし、それに手が早い。
 
更に当時としては珍しいインフォームド・コンセント
彼らの評価は、当初のヤブから名医に変化。
 
人の噂ってあてにならんものですね。

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 もう一つの『南19条大橋』でのこと。
 
夕方、事務所に電話がかかって来ました。
「南19条大橋の袂で、会社の車から泥水をかけられたから洗濯代六千円を払え!」というもの。
 
その電話で言う車番は魚住君の乗る社有車。
ドアに社名が入っている。
魚住君ならやりかねない。
 
他方、因縁をつけるややこしい相手とも考えられる。
彼に小口現金を渡して払いに行かせて一件落着。
三千円に値切ったそうです。
 
それから半年弱後の10月12日、またまた洗濯代を払えとの電話がきました。同じ場所で社有車の同じ車番で。
 
「魚住君、また君か! もう少しゆっくり走ったらどうや?」
「いや、あれ以降、特にあの橋では注意して走っていますからそんなことはあるはずがないですよ」
 
「それじゃ、何でまた電話がかかってくるの?」
「ワシだけ何で? 所長、これは変ですね。同行していただけますか?」
 
夕刻、待ち合わせ場所は、札幌大通り郵便局(大通り西2)の裏口。
何故にこんな薄暗い場所を指定したのか?
 
魚住君が絶叫しました。
「この男だ!」
 
前回と同じ男だという。
シラをきる男。
 
「交番に行こう」と魚住君。
どう見ても学生か浪人生。
 
今回の彼の洗濯代要求額は三千円だが、二千円を渡して領収書に住所氏名等を記入させる。どうせ、実在しない名前だろうけど。
 
「もしも、他の会社でもこのような話を聞いた場合は警察に訴えるよ。
君の顔は、我等二人がしかと見ているし、モンタージュを作ってもらうのは簡単だからね」
 
魚住君曰く 「所長、モンタージュでしたら、警察よりも道新(北海道新聞)の書き手の方が上手いですよ」
私 「今はそういう問題じゃない」
 
 
帰りの車の中で、魚住君が首を傾げる。
「所長、どうして交番に行かずにお金を渡したのですか?」
 
「もしも交番で彼があくまでも泥水をかけられたと主張したらどうなる?
あれやこれやで君にとり数日間の浪費となってしまうことが一点」
 
更に「もう一点は、彼は根が暗く執念深いタイプ。事務所が木造で夜間は誰もいないことを知っている。怖いのは放火だよ」
 
そして南19条大橋の西袂に車を停めて様子を見ました。
 
東方行きの車線では、畳が縦に二枚ほどの大きさの水溜まりが出来ている。
青信号で飛び出した直進車は、ノーブレーキでこの水溜りに突っ込む。
 
「バシャ!」「バシャ!」
車が通る度に、傍に停止していた我等の車のドアガラスを泥水が叩く。
 
成る程、ここが彼の通り道。
彼の気持ちが分からんでもない。
 
橋を渡りきった時に、いきなりバシャッとやられたのだ。 
偶々、その後に通ったのがドアに社名を書いた魚住君の社有車なら。
 
魚住君の車が泥水をはねた車ではないことは分かっているが。
このままでは頭から泥水をかけられた彼の気持ちが治まらないと言う事か。

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