彼女の成長へのプロセス
私の履歴書・330
部下にとって辛かったのは、毎週金曜日もしくは月曜日の夕方からの週ミーテングでしょうね。
個人ごとその一週間の実行計画と次週の計画を発表させ、それについて私が質問するものです。
尋問に近いもの。
私が一番問題にしたのは、彼等自ら計画した行動内容と行動量の達成率でしたね。
その行動内容と行動量とは、自己の目標を達成するために自らが算出したもの。
基本的な考え方は、毎日の朝礼の15分と毎月1回の社員研修で叩き込んでいます。
富士山の頂上(=目標)に立ったと想定し、その頂上から下界を見下ろし、どのようにして登ってくるかを描くのがシナリオ。
そのシナリオ通り荷物を担いで平地から登って行くのが実践。
要は、目標達成のシナリオを自ら考え、そのシナリオ通り自ら実践し、目標を達成する人間を創ること。
シナリオの創作力と実践力の無い人間は、安定した実績をあげる事が出来ない。
それに、例え人の上に立っても胃潰瘍になるのがオチですね。
ですから、行動量が計画の90%未満でしたらテーブルを叩いて叱りましたね。
他方、
季節は思い出せませんが、世子が時々立って彼女の机の背後にあるブラインドの隙間からじっと外を観ている事が多くなりましたね。
何かに思い悩んでいるように見えました。
注)世子の机は、私の左横にあります。
或る日の午後。
事務所の中では偶々世子と二人きりの時でしたね。
「所長、お話があります」
「なんだね」
「私、会社を離れても、仕事以外のことを考えることができないのです」
「 ----------- 」
「 ----------- 」
「 ----------- 」
「いつも頭の中は仕事のことばかり。夢にまで出てきます」
「 ----------- 」
「彼は私に会社を辞めてくれと言います」
「 ----------- 」
「 ----------- 」
「 ----------- 」
私はじぃっと世子の眼を見つめました。
何と言って良いのか分からなかったから言葉が出ませんでしたね。
世子もじぃっと私の眼を見つめました。
お互いに無言で見つめ合ったのが五分以上だったと思います。
やがて私の方から静かに目を落としました。
何かを言ったら壊れそうでしたからね。
何かを言ったら言葉が返って来て「会社を辞めます」と言われそうでした。
私も、ブラインドの隙間からの外を観るしか眼の置き場がなかったですね。
世子も、一緒に無言で外をじっと観ていました。
その後、バイトの女子大生が帰って来ましたので、その状態は打ち切りとなりました。後日、バイトの娘が言うには、変な雰囲気だったそうです。
以後、世子と眼が合うと何秒間は見詰め合うので、その都度「会社を辞めたい」と言われるのではないかと心の中は穏やかではなかったですね。
世子の毎日の大変さは分かっています。
私、月のうち半分は札幌の事務所にいないのですから。
毎日、部下は諸問題を背負ってきますから、世子はその報告を聞いて何等かのサジェスチョンをしなければならない。或いは、早急に手を打たなければならない。
無論、自分の目標を達成しながら。部下に目標を達成させるために自分が犠牲になってしまった等との弁解は私には通じない。
日頃、私の言っていること。
『溺れている人を直ぐに助けようと思うな』
先ず、その前に、自分のしっかりとした足場を確保すること。
しっかりとした足場から、縄や棒などを伸ばしてそれに掴ませること。
その足場無くして他人を助けるなどと思うな。
自分の足元が脆弱だと、直ぐに溺れる者から引き込まれ水中にドボン。
ましてや、飛び込みなどしたら、相手に抱きつかれて一緒に土佐衛門。
彼女の場合、当初、この辺の呼吸の取り方が難しかったようですね。
だから仕事が夢にまで出てくる
でも、この現象は、成長への一種のプロセス。
徐々に部下に対して明確な指示が出来るようになりましたし、それに暖かさと冷たさの両方が出てきましたから、ほっとしましたね。