目標設定により奥様お子様の期待へ
私の履歴書・312
(函館戦争⑧)
目標設定により奥様お子様の期待へ
12月、淀川課長の要請により、以前提出していた稟議書を書き換えて再提出。
稟議書から、函館の文字を消しました。
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函館の文字が入っていた場合、山村東京本部長の方針に対して本社本部が防止策をとることを意味することは明白。これでは両者の激突となりますからね。
明けて1989年正月、年始挨拶を兼ねてLL社札幌支店長と面談。
この状況を淀川課長に報告。稟議書決裁をせかす。
「稟議書の決裁を早くしなければ間に合わない。第百事務機が札幌市内まで侵攻した場合は、手の打ち様が無くなる」
3月初め、ようやく吉田本部長の決裁印のある稟議書がFAXで送られて来ました。
長かったことよ。
3月下旬、LL社の人事異動で函館の営業員2名入れ替わり。
我社函館・駒田係長のLL社函館の営業員に対してキャンペーンの根回し完了。
3月末、私は満を持して函館に飛びました。
居酒屋の奥座敷で待っていたのはLL社函館各課の代表として主任2名。
そこで飲食の前に改めてキャンペーンの説明をしました。
(1)10台以上販売してくれた人には1台につき2万円換算で家電商品をプレゼント。
例えば、15台販売の場合は、合計30万円相当の家電商品。
(2)期間は4月1日から9月末日までの半年間。
(3)家電の受け渡しは10月中旬。各自の指定場所にお届け。
そして、シャープとサンヨーの夫々の家電カタログ冊子(横綴じ・文庫本寸法・厚さ2cm)を渡しました。
やはり、質問がありました。
この事が公(おおやけ)になった場合のリスクです。
過去の幾つかの企業での具体例を挙げて説明しました。私が、東京支店勤務の時に、サンヨーから20型テレビを貰ったことも。
公務員なら問題がありますが、民間会社でしたらこのようなキャンペーンは普通のことですから。
そして私、やおらカバンから一通の稟議書を取り出し広げました。
「この内容と決裁者の名前を御覧下さい。うちの吉田本社本部長の決裁印ですね。次が、淀川課長の印ですね。
この淀川課長が、御社本社の窓口です。
彼は、御社の機器担当の部課長と同じ旧帝大出身。
然も大学寮で四年間一緒だったのです。
この件は公にしないことを条件に御社の本社の了解は口頭で得られています。ですからうちの役員の吉田本部長が決裁印を押したのです。
寧ろ、公になったら困るのはうちの方なのですよ。全国規模でこのキャンペーンを行った場合、うちの会社の損失は莫大。
1台につき家電商品代金2万円と言うことは、年間1万台で2億円の経費。それにプラス税金がうちの会社の負担となりますからね。
ですから、うちの会社の為にも公にならないようにお願いします」
「(LL社札幌支店の)支店長はご存知なのですか?」
「支店長には、年始挨拶の時に、新年度は御社の本社と相談の上、函館には何か特別な手を打つとだけ伝えてあります」
「支店長は、どう仰っておられましたか?」
「函館は、毎年動きが遅いから尻を叩いてくれと申しておりました」
暫し沈黙後、
「公にしないことの他に二つのお願いが御座います」
「何でしょうか」
「一つは、余程の事情が無い限り、キャンペーン期間の4月から9月までの半年間はうちの機器で推すこと。尚、10月以降は何処のメーカーでも構いません」
「分かりました。もう一つは?」
「全営業員の皆さんには、ご要望の家電商品を何にするかを奥様やお子さんと相談されて欲しいのです」
「どうしてですか?」
「家電メーカーに在庫の有無を確認しておくためです」
「いつまで?」
「一週間以内でどうでしょうか」
それからかしわ手を打って料理と酒を運ばせました。
もちろんこの席で彼等の目標とする家電商品を決めさせました。
LL社函館の営業員12名全員の要望家電商品リストが出来たのは10日後。
実はこのリストの目的は家電の在庫の有無の調査ではないのです。ナポレオン・ヒル流に言うと成功の条件を打ち出させたのです。
● 目標の明確化
● 期限の設定
彼等の成功は、我等の成功。然も、このプロセスを通じて我等には新たな強い援軍が生れたのです。
皆さん、何を選択するかを家族で検討したでしょう。大型カラーテレビや洗濯機、オーブン電子レンジ、大型冷蔵庫、ビデオなど。
つまり、各家庭でこの家電商品を決定した瞬間から、このキャンペーンの推進者は家庭の奥様やお子様になったのです。
毎夜毎夜、奥様やお子様は帰宅したご主人に言うでしょう。
「あなた、今日はどうでした?」
「パパ、頑張って!」
奥様とお子様が10月の或る日を夢見る6ヶ月間なのです。
(函館戦争⑨)
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