孫子の兵法『戦わずして勝つ』実践版
私の履歴書・311
(函館戦争⑦)
孫子の兵法『戦わずして勝つ』実践版
改めて、一年前の駒田係長が函館に着任した1988年3月に時計を戻します。
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この時の三つの問題の三つ目
「DJ社の年間食品機器販売粗利益(あらりえき)額3,500万円を、1989年度に完全に断ち切れるか」
帝国データバンクの調査書から種目別売上額と粗利益額を推定。経営者評価欄では「社長は食品機器業界に参入し、LL社との取引で業績を伸ばした。この分野は今後も成長が見込まれる」
やはり増収増益分は、LL社との取引で生じたもの。
調査書で、DJ社社長はLL社の幹部に相当強いコネがある事を匂わしている。だが、LL社の札幌支店や各支所長に聞くも、その幹部は誰かが分からない。
それが分からずして中途半端な対応ではこのコネは断ち切れない。
下手に立ち回ったら逆襲に遭うリスクもある。
DJ社新築事務所建築予定地が、移転したLL社函館営業所の真横。
普通では考えられない場所。
やるなら一気!
不渡り手形を短期に二回出させ、銀行取引停止(倒産)にさせること。
勝負は高コスト体質にしてから、一気に収益源を断ち切れるかどうか。気付いた時にはもう手遅れの状況にしなければならない。
それでは「一気に収益源を断ち切る手段」とは?
言えば簡単なこと。と言ってもそれが難問。LL社函館営業員全員が、我社の製品を推してくれたらいいだけの事だが。
その営業員達を動かす手段にはお金しか思い当たらず。と言っても、果たしてLL社営業員は、我等からスムーズに金を受け取るか?
受け取るはずは無い。よしんば受け取ったとして、これが公になると受領した社員は処分される。
リスクが大き過ぎる。
でもこれしか道はない。
ではどうするか。
金に代わるものとは物。
そこで打ち出したものは、
【マル秘キャンペーン】
函館と江差商業組合エリア内に我社の機器が納品された場合、LL社のそのエリア担当者に家電商品を贈呈する。
記
1)対象者 我社製品を10台以上販売した営業員
2)贈呈家電商品 営業員の事前申告制。一台につき2万円相当換算。但し、家電商品の算定価格は定価の85%とする。
3)目標台数 200台
4)費用総額 400万円
5)期間 決裁下り次第半年間
6)特記事項 このキャンペーン費用は、BB営業部負担とする。
LL社函館の営業所は二つの課があり、営業員は12名。ラッキーにもこの春のLL社人事異動で函館に転勤してきた営業員4名は、各地から転勤の際、餞別を渡した人たち。
それに、各地の繁華街で一緒に酒を酌み交わした連中。
土俵は出来ている。
だが、本社BB営業本部淀川課長に相談するも明らかに逃げ腰。
それもそうですね。LL社本社に知られた場合、その窓口の淀川課長の立場は微妙となる。
ではどうするか。
一台納品毎に、紹介手数料として処理することも出来るのだが、その方法ではLL社函館の一部の営業員のみで然も動きは鈍いだろう。
何とか彼等が一気に然も一斉に動ける方法はないものか?
やはり、LL社本社を動かさなければならないのか。
私はLL社本社幹部に面識はない。
かと言って新たな手は見当たらない。
悶々(もんもん)としていましたね。
その時ですね。
山村東京本部長が道南エリアを明け渡せと言ったのは。
チャンス到来。
淀川課長に迫りました。
「道南エリアを村本本部長が渡せと脅迫してきました! 道南エリアをどうするのですか? 本社BB営業部は道南から手を引き、山村本部長の管轄にするのですか!」
「その話は役員会でありました」
「このままでは道南エリアは山村本部長の管轄になります。前に話した『マル秘キャンペーン』の許可を下さい」
「許可をしたら勝てますか?」
「勝てます。土俵は出来ています」
「待ってください」
「いつまで?」
「何ヶ月か」
「それじゃ話しにならない。期限はいつ?」
「今年度いっぱい(翌年3月末日)時間がいる」
「どうして?」
「吉田本部長とLL社本社に、函館だけ特別な動きをすることの了解をとらなきゃならない」
「分かった! 稟議書を近日中に送るから了解をとれ次第、決裁印を押して返送してくれ」
「稟議書提出はその時でいいよ」
「いや、今書いて今送る」
幸運でしたね。
私対DJ社&山村東京本部長ペアーとの戦闘(A)を、吉田本社本部長対山村東京本部長の社内闘争(B)にすり替えましたから。
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(函館戦争⑧)
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