明確なる目標とは料亭のすき焼き
私の履歴書・296
1989年3月年度末、魚住君が興奮しながら事務所に帰ってきました。
「所長、大変です。山川に30台やられました」
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山川とは、一年4ヶ月前我社を辞め、個人で独立した男。
早速、ブルー社の特約店となっていましたね。
山川君は、子会社勤務時代、毎年の機器メーカー会合に出席。
その会合でブルー社札幌事業部長とは面識がありました。
ブルー社は帯広と函館では滅法強いが、札幌市場では虫の息で打つ手なし。
この状況でしたから山川君の話に直ぐに乗ったのでした。
「やられましたって他人事のように言うじゃない?
一気にやられた訳じゃないでしょう?
一年間で30台でしょう?
どうして今まで気がつかなかったの?」
メンテナンス員も参加しての対策会議。
皆の持っている情報を集め特性要因図で原因を分類、全員共通認識。
対策の立案。各自の行動まで落としこみました。
その時から、事務所の中は殺気立ちましたね。
社員の帰宅は遅くなっていきました。
注1)ブルー社には小型機種しかなく、納入先は田舎の小店が主。
事務所で世子と亜子との三人になった時に、彼女等が言いました。
「所長、最近疲れがとれなくて」
「早く帰宅して早く寝なさい」
「所長、元気付けに美味しいものを食べたいわ」
「花咲かになら、いつでも付き合うよ」
「かにじゃないです」
「そうです。お肉ですよ」
「そういえば先日の昼、料亭で松阪牛の網焼きを食べたよ。美味しかった」
「どこで?」
「中島公園の東側の『大手門』だよ」 注2)札幌市南11西1
「あそこは高級料亭で高いでしょうね」
「昼で網焼き一人8千円。追加の肉とビール代その他で一人2万円弱かな?僕は払ってはいないが」
「所長、網焼きではなくすき焼きですよ。それに昼ではなく夜ですよ」
「夜のすき焼き? 単品だけで一人2万5千円だよ。追加の肉が8千円。それに小鉢に飲み物にサービス料に税金。5万円はかかるね。それに芸者代」
「お昼はゆっくり出来ないでしょう。それから芸者なんていたら初めてですから食べた気がしないし要らないですよ」
「とすると二人で10万円か」
「二人じゃないですよ。所長と三人ですよ」
「エェエ?」
「そうよ、女二人でそんな料亭に入れる訳がないでしょう」
「簡単に言ってくれるね。三人で15万円の晩飯代を捻出する根拠が無い」
「どうしたら連れていってくれるのですか?」
「まあ、二人で月間売上額が一億円なら」
「一億円? 一人月に5千万円50台ですね。」
「いやいや、あくまでも二人で一億円の100台ですよ」
「それを二人で達成したら本当に連れていってくれるのですか?」
「そうだよ」
「やりましょう!」
「そうよ、やります! 二人で一億円」
冗談で言ったつもりなのですが、彼女等は本気になりました。
注3) 松阪牛のすき焼き「大手門」は、たらば蟹「氷雪の門」と同じく、大丸物産㈱の経営。
当時は、門の格子戸をくぐり、十数歩庭を歩いてから母屋でしたね。
注4) 当時、札幌の飲食代は安く、広島流川の半額、もしくは三分の一。
(続編)
私の履歴書・297 シンデレラ姫の帰社時間は午前様
私の履歴書・40歳代北海道編 目次(1)~(3)