若き女性の営業戦術

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     私の履歴書・295
 
私に報告や依頼ごとがあった場合、男性社員は私の机の前に立つ。
 
処が、女性の場合は、私の椅子の真横に立つ。
いつも世子(よこ)は私の左手に、亜子(あこ)は右手に立つ。
 .
その時二人共に私の椅子の肘掛は、彼女等の身を委ねる場所となる。
 
肘掛の上にある私の肘に彼女等の柔らかな腹部が当たるのである。 
男なら誰でも理容店で体験する光景。
 
だから私は、一呼吸おいてから、少しずつ肘を引っ込める。
急に肘を引いたら密着していることを意識をしていると思われるから。
 
亜子の場合は、これに留まらない。
肘を引いたら亜子の腹部は、私にのしかからんばかりにぐっとめり込んでくる。
 
私は、いつも大きな声で言う。
「こら、亜子! あんたは私にくっつき過ぎだ!」
 
何度言っても変化が無い。
然らば、「亜子! 僕から2m以内に近づくな!」
事務所の全員、皆、大笑い。
 
その時は、確かに2m離れた右横で私に話をする。
亜子の大きな声。
 
30分後の次回にやって来た時にその距離はいつの間にか1m。
その次は距離ゼロで元の木阿弥(もくあみ)。
 
横に立つ亜子を見上げないで正面を見ながら話していると、机と椅子の間に割り込んでくる。
つまり、亜子と私は向き合い、亜子の右脚と私の右脚が密着する。
 
彼女等の言う言葉はいつも同じく必死。
「所長、是非この書類に判子下さい」
あるいは「所長、お願いします」
 
ナポレオン・ヒルの講義の効果が出すぎたからかもしれない。
あるいは、彼女らの戦術かもしれない。
 
注)二十年経った今でも、左肘には世子の、右肘には亜子の女性特有の柔らかな腹部の感触が残る。
 
 
魚住社員が一度だけ私に抗議したことがある。
 
「所長は若い女性には甘すぎます」
「どういうことかね」
 
「女性には接待交際費を自由に使わせて!」
「接待稟議書を出してくるから、決済しているだけですよ」
 
「それじゃ、僕達も自由に使っていいのですか?」
「あれ?使って下さいと言っているでしょう。処で、君は月に幾ら使えるのかね?」
 
「僕の場合は5万円もあれば」
「その位しか使えないでしょう?」
 
「もっと使っていいのですか?」
「構わないけど、果たして君に毎月50万円使えるかね」
 
「毎月となると出来ません」
「出来たら大物」
 
「どうしてですか?」
「一緒に飲もうとする顧客が果たして何人いるかね?」
 
更に
「ビジネスの世界で、顧客はおいそれと飲む誘いには乗らない。
一緒に飲むとしたら、これまでや今後に数字が伴う事が前提だね」
 
            ★ 
 
注)接待交際費は、社員なら自由に使いたいとの願望がある。
接待交際費を自由に使えたら、数字が上ると思っている。
 
だが、使って効果が上る相手が少ないのが現実。
男の場合の接待交際費の使途の大半は、部下との飲み代とか、自分の行きつけの居酒屋とかスナックとかのツケの払いにまわっており、肝心のお客さんとは飲んでいないのが現状だ。
 
            ★
 
「魚住君、彼女達が僕と度々同行して、お客さんを訪問する目的が分かりますか?」
「分かりません」
 
「私を連れて行く先は『見込み客』『継続取引先』『情報提供者』『有力者』だよ」
「挨拶訪問でしょう?」
 
「そこが君達とは違う所だよ。真っ赤な表紙のダイアリーを広げて『社長さん、今度の金曜日午後6時、飲みに行きましょう!』って誘うのだよ」
「でも、その社長は行かないでしょう」
 
「亜子の場合、その時、私はすかさず亜子に免許証を出させて相手に見せる」
「見せてどうなるのですか?」
 
「私が亜子と初めて会ったと同様、相手はカルチャーショックを受けるね。25歳は、とうに過ぎていると思っていたのが、未だ二十歳の乙女だよ」
「で、相手の返事は?」
 
「皆で大笑いさ」
「それじゃ、それで仕舞いですか?」
 
「それが始まりさ」
「エェエッ?」
 
「相手は、スケジュールを亜子に合わすんだ!」
「所長も接待に行くのですか?」
 
「いやいや、僕は行かないよ。ゲームの主役は亜子。僕がその席に登場したらゲームはぶち壊しだ!」
 
私は、世子と亜子の夜の接待には一度も付き合った事が無かったですね。
但し、彼女等の操(みさお)を守るために、苦労させてもらいました。
 
                      それは、次回で。