お手本になった19歳の女性営業員

 
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    私の履歴書・286
 
亜子の運転する車に乗ってLL社札幌支店へ。
 
車中、亜子に旭川出張所社員に言ったように、繰り返し言いました。
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「毎日のように訪問したいなら、訪問都度彼等に提供する情報が要る。
その為には、毎日相当数の顧客を訪問し、LL社にとって価値ある情報の入手に務めなければならないよ」
 
 
LL社に着いた時にはもう終業時間が迫っており、帰り仕度をしている受付嬢。
「お待ちしていましたわ」と言うその彼女に案内されたのは、事務所の真ん中にある応接セット。
 
次長に亜子を紹介してから言いました。
「次長、亜子社員は19歳で、本来機器の納品立会いの仕事ですが、是非営業をしたいといいますので連れてきました」
 
更に
「次長、お願いが御座います。
御社の就業時間後ですが、毎日亜子社員がこの事務所内に入る許可をいただけないでしょうか」
「何処のエリア担当なの?」
「御社の営業1課のエリアです」
「それなら1課長を呼んだ方が早いね」
 
「お~い、1課長! こっちへ来て!
 ウズマサさんの亜子さんが、これから度々1課に来るから頼むよ」
 
「分かりました」
「それから亜子さんは19歳だ」
19歳ですか?!」
「亜子と申します。昭和43年生まれで申年です。宜しくお願いします」
 
「1課長さん、亜子社員が1課の皆様方に挨拶で回りたいのですが宜しいでしょうか?」
「それでしたら、今から早速」
 
1課長は、亜子を連れて1課全員に紹介。
次長は、この後、呼びに来た社員と共に業界の会合に出かけました。
 
私は、亜子が営業社員一人ずつの机を訪問し、名刺交換をしている姿を見届けてから外に出ました。
 
そして、その玄関から10メートル程の場所に立ち、亜子の出てくるのを待ちました。
 
外はすっかり暗くなっていました。
30分ぐらいでしょうかね。待ちましたのは。
 
それもそうですね。
一人当たり3分として1課の十人個々に挨拶をしたら30分ですからね。
 
上手く挨拶が出来ているだろうかと思いつつ、それにしても身体が冷えましたね。
 
やがて亜子が玄関から出て来てきょろきょろ。
私がもう帰ったと思ったのでしょうか。
 
玄関の光が直接当たらない陰の場所に立っている私を見つけるや否や、小走りで走ってきて私の首に飛びつきました。
 
「所長! 有難うございます。私、嬉しくて! 嬉しくて!」
 
亜子に身体ごと預けられた私は後ろによろよろ。
自然と亜子をしかと抱きしめることになりました。
 
「亜子、あのね、ここはLL社の玄関前だよ。他人が見たら何と思うかね。
すまんが、この両手を首から離してくれないかね」
 
小雪がチラチラ舞っていましたね。
 
 
 
それから三週間後でしょうか。
 
私が単独でLL社を訪問し次長と例の事務所中央の応接セットで面談。
次長は、早速三人の営業課長を呼びました。
 
「水無瀬所長、私は朝礼の時や支店営業会議の際、『ウズマサの亜子さんを見習え!』と営業員全員にはっぱをかけていますよ」
 
課長達も口々に
「そうです。いやぁ~、あの熱意と根性は人並みではありません」
19歳とは信じられませんね。我社の20代の男連中では、足下にも及びません」
 
 
その時ですね。背後の入り口の方から聞いた事のある声。
「失礼します」
でも、猫なで声。
 
「水無瀬所長、噂をすれば何とやら。今日も来ましたよ」
後ろを振り返ると、それはすまし顔の亜子でしたね。