19歳の亜子の決意

 
 
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1988年2月下旬、亜子(あこ)が営業をしたいと言ってきましたね。
 
そこで、それまでヘルプをしていた草野君の《エリアA》(札幌市西部、国道5号線小樽市倶知安町)で動いてもらうことにしました。
 
3月上旬のある晴天で暖かい日の朝でしたね。
亜子は私に一緒に同行して欲しいとの事。
彼女の運転する助手席に乗車しました。
 
白石区でも千歳よりのスーパーから一筋入った道端で亜子は公衆電話に。
その近くの友人に電話をしたのです。
 
「私の親友を紹介するわ」
「亜子の親友って何歳?」
「同い年よ。それと昔の写真を持って来るわ」
 
十分程して向こうからサンダルの薄着で歩いて来るのは全く普通の女の子。
いいスタイルでしたね。
 
 
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「所長、私の親友の久美よ」
「久美です。急に呼び出すからお化粧もしていないので恥ずかしいですわ」
 
「あなたが亜子の親友?」
「そうです。中学時代からの」
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「スッピンと言っても、秋吉久美子とそっくりじゃないですか」
「だから久美と言うのよ、メグを(本名メグミ)」
「高校の制服を着たら、立派な初々しい女子高校生だよ」
 
驚きましたね。亜子と夜遊びをしていた久美。
顔の皮膚、瞳、身体のラインには、夜遊びの疲れなど微塵もない。
 
ほっそりとした九頭身。固くてはじけそうな肌。
化粧焼けしたのか、顔は浅黒。
 
それが一層、少女の雰囲気を漂わせている。
見とれましたね。
 
「久美、写真持ってきた?」
「これよ」
 
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その写真とは、一種の竹の子族スタイル。
両名が本人とは分からない程に厚化粧。
 
「よく踊ったわね」
「所長、これ見て! これが私よ」
 
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五枚ほどの写真の最後に登場したのは、ピンクの車を運転している女性。
「なんじゃ? この車の塗装は?」
 
「これで、すすきのをバゥバゥゥ~~って走るのが楽しかったね」
シャコタンにマフラーを外して不夜城すすきのを駆け巡ったという。
 
車の塗装はピンク。ドアには首から下の裸体の女性が描かれてある。
つまり、運転している女性の顔とドアに描かれている裸体とが対になる。
 
写真の運転している女性は、辛うじてドアから首が上にはみ出ている。
その女性の顔には大きなサングラス。
 
明らかにこの女性は亜子。
「楽しかったなあ!」
「でも、私達、もう少しで小母さんね」
 
 
 
それから亜子の自宅に行きました。
母親は工場の隣でお好み焼き屋をしていました。
 
そこで、昼食代わりにお好み焼きを食べました。
隣接の工場から、父親も来まして四方山話。
何か、亜子の両親に対して、私の顔見世に連れていかれたようなもの。
 
 
三月の雪がドカンと降った日でしたね。
 
「所長、草野さんが私をLL社札幌支店に連れていってくれないのです」
「それは変だね。君を連れていくように指示したはずだが」
 
「一度は連れていってもらいましたが、それだけです」
「あのね、亜子。他人に頼っていては何も出来ないよ。一度紹介してもらったなら、一人で行ったらいいでしょう」
 
「所長、お願い! 私を連れて行って! 次からは私一人で行くから」
「連れて行ってもいいけど、条件があるよ」
 
「難しいことですか?」
「簡単なことだよ」
 
「むこうの営業員と名刺交換や話をするときは、常にしゃがむこと」
「しゃがんだら、ショーツを見られますわ」
 
「馬鹿もん! どこでしゃがむつもりかいな。相手の机の傍だ。だから亜子の目線の高さは常に机の高さと同じ」
「何人にでもしゃがんだら足首が痛くなりますわ」
 
「痛くなったら床に座れ」
「はい、そうします」
 
それからノートを持ってこさせて、一頁の真ん中に定規で縦に線を二本引かせました。
 
「いいかい、左の狭い欄には、日付と時間と相手の名前。中央の広い欄には相手の話した内容を記入する。右の欄には、相手の言った内容に対しての君の翌日の顧客訪問顛末を記入する。その記入されたノートを持参し翌日に再訪し報告すること」
 
私がLL社の机に座る営業員になり、ロールプレイングをしましたね。
  注) ロールプレイング 夫々の役割になり演技をする訓練方法
 
私が話している時は、しゃがんでいる亜子は膝の上のノートにその内容を書く。
私が話し終わったら、徐に見上げて微笑みながら顔を微かに右にひねる。
 
再度、下を向き、ノートに記帳した内容を読み返し念を押す。
最後に「有難う御座います。明日、報告します」と言う。
 
終わりしな聞きました。
「『亜子ちゃん、可愛いね!』と言ったらどう答える?」
「『ご冗談を!』と言います」
「それは、小母さん言葉だよ」
「じゃ、どう言うのですか?」
「亜子は、あくまでも19歳。『嬉しいですわ』と恥じらいをもって言うことだね」
 
ここの場面だけで再度ロールプレイングでしたね。
 
さて、万全を期してのその日の夕方、亜子の運転する車で雪道をLL社ビルに向かったのでした。