若い娘や小母さま族にもて過ぎた社員
私の履歴書・281
1987年秋
山川課長の転勤拒否で空席になった旭川出張所長のポスト。
そこで、私が旭川出張所長を兼務。
26歳の一般社員斎木君を所長代行に。
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彼は自信が無いと再々申し出ました。
「それじゃ、当分、毎日あなたにFAXで指示します。
あなたの指示は私の指示。あなたの指示に従わない部下は懲罰します」
更に、旭川で戦力増強の為に社員募集。
この頃、旭川の業績は伸び始めていました。
21歳の吉村君を採用。
旭川実業高校卒。
なかなかの男前で、それに独特のムードを持っている。
「これは使える」と思いましたね。
「彼女はいるのか」と聞くと「いる」という。
多感な歳頃だが、それじゃ、落ち着いているだろう。
実は、面接した中で、斎木君は31歳の所帯持ちの人を希望しましたが、31歳と言いますと、脳細胞の死滅数が新生数を超える域に入る。
一生滞りなく使える知識や経験は、20歳代までに得たもの。
ですから、31歳となると教育指導効果は薄い。
例えば、子供の頃、足し算引き算などを学習しているから一生使える。
他方、40歳代で初めて算数を習った場合、電卓必携。
但し、もしも本を読んでいたら、思考回路が育っているから話は別。
残念にも、その31歳の彼は本を全く読んでいない。
21歳の吉村君が入社して一ヶ月後、斎木所長から電話。
吉村社員が、毎日遅刻との事。
夕方、特急に飛び乗って旭川へ。
彼を諭す。この件で旭川に行ったのが三度。
私が行った後の一週間はまともに出勤。
以後、遅刻に無断欠勤が始まる。
まだまだ夜遊びに夢中。
そのうち止むだろうと高をくくっていました。
斎木所長が彼のアパートに寄り、彼を起すのが日課となりました。
但し、私が旭川に来ると伝えておくと、その日はまともに出勤。
斎木所長の嘆き。
「今まで水無瀬所長には内緒にしていましたが、最近では女のアパートに泊まっています。それがどの女のところか捜すのが大変」
三ヶ月の試用期間中の事ですから解雇できたのですが、何とか一人前になって欲しかったですね。
週5日勤務のうち、3日間は重役出勤。２日は無断欠勤で半年経過。
このままでは遺憾！ 吉村君を、函館に転勤させました。
その頃の函館は、北見→札幌と移動させた駒田君を急遽函館に転勤させていました。
駒田君なら、彼を使えるかもしれない。
吉村君の住むアパートは、事務所から徒歩５分の所を探させました。
最初の半月はまともに出勤。流石駒田君！
処が或る日、お昼になっても出勤してこないという。
駒田君は彼のアパートを訪問。
部屋にいたのは十代後半の女の子。
それが可愛い！可愛い！とのこと。
旭川から有休をとって彼を追いかけてきたのですね。
函館の住所は彼の男友達から聞いたとかで。
その女の子が一週間ほど滞在してから旭川に帰りました。
やれやれ、これでまともになった。と、それはほんの２～３日だけ。
再度、お昼になっても出勤せず。
駒田君、彼のアパートを再訪。
部屋にいたのは違う女の子。
これまた可愛い娘だそうです。
函館の女性ですね。
「べ」を多用するとか。
後、暫らく吉井君の話が無いと思っていたら駒田君から電話。
「水無瀬所長、吉村のアパートに行くたびに女が違います！」
大笑いしましたね。
「その彼をどう使うのか、君の腕の見せ所だよ」
函館商業組合の婦人部会の懇親会に呼ばれたそうです。
駒田君は３６歳。背は160cm弱。けっして男前ではない。
北見でもそうでしたが、それが何故か60歳前後の婦人部長に好かれる。
函館の婦人部長も我社のみを懇親会に呼んだのです。
背の高さ177cm、21歳の吉井君を連れて参加。
大変だったそうです。大騒ぎになって。
30歳代～60歳代のご婦人の皆様方が「キャ～！キャ～！」となって。
対象は吉井君。
小母さま族に取り囲まれる。
握手攻めにあうわ、身体のあちこちをさわられたりで。
穏やかな視線。ちょっと低めの甘い声。少ない言葉。
彼の小母さま方への応対の仕方は、天才的なものとのこと。
その吉井君が函館勤務1年経過した頃、会社を辞めました。
彼の旭川の両親が、突然函館に来て、彼の荷物を運び出しました。
「息子が、会社に大変なご迷惑をかけているとは知りませんでした。
今日限りで息子を辞めさせます。長い間、申し訳ありませんでした」
彼の父親は、駒田君にそう言って息子を連れて函館を去ったそうです。
どうやら、函館か旭川の女性が、彼の両親に手紙を書いたようでしたね。
