誓詞血判状に驚いたら私の負け
傍から佐々課長が眼を吊り上げて言う。
佐々課長 「水無瀬常務、連判状が来たのですよ」
佐々課長 「水無瀬常務、連判状が来たのですよ」
「して、その内容は?」
「今後、一切、㈱ウズマサの指示には従いませんと書いてある」
「今後、一切、㈱ウズマサの指示には従いませんと書いてある」
「何が?」
「全員、名前の下の判子を押す場所に、血ですよ」
「全員、名前の下の判子を押す場所に、血ですよ」
「それはそれ。北海道再建という大儀名文なら、札幌に行ってから私が決める事」
「よう、言いはりますな」
「よう、言いはりますな」
「考えても見なさい。反旗を揚げたとしても、20名の部下の月間給与のみでも、どんなに安く見積もっても現金で600万円。1年で7,200万円だ。
会社の形態なら月間経費2,000万円。年間2億4千万円。
山川君にその金があると思う?
ライバル社が機器を卸してくれたとして、その販売利益で賄うつもりでも、ただでさえ、販売力ない連中だよ!」
山川君にその金があると思う?
ライバル社が機器を卸してくれたとして、その販売利益で賄うつもりでも、ただでさえ、販売力ない連中だよ!」
「言われてみると、その通りですね」
「了解。話はそれだけなら、これから社長室に入るよ」
社長室に行く途中の廊下でも、すれ違う人、すれ違う人が言う。
「大変ですね。水無瀬常務」
「大変ですね。水無瀬常務」
どうやら、本社全体に札幌から届いた血判状の話は行き渡っているようだ。
社長室のドアをノック。
くだんの応接セットの真ん中に座りました。
社長は、茶色の細長い定形外封筒を私の目の前のテーブルに置きました。
「話は、池内室長から聞いたと思うが」
「はい、受け賜りました」
「はい、受け賜りました」
「これが、そのものだよ」
「これは見ません」
「これは見ません」
「それはどうして?」
「見る必要が無いからです」
「見る必要が無いからです」
「ほう」
「私の赴任目的は、北海道再建ですから、そんなものに拘る(こだわる)気は毛頭御座いません」
「私の赴任目的は、北海道再建ですから、そんなものに拘る(こだわる)気は毛頭御座いません」
一瞬静寂の後、
「それと、問題は釧路商業組合だ」
「と言いますと?」
「と言いますと?」
「あそこの大黒(仮称)という事務長はなかなかの者」
「と言うことは、10年以上前から一度も落とせなかったのですね」
「と言うことは、10年以上前から一度も落とせなかったのですね」
「そういう事だ」
「期限は?」
「期限は?」
「1年!」
「1年で落せと言うのですか。それまた厳しい!」
「1年で落せと言うのですか。それまた厳しい!」
「釧路商業組合傘下の小売店に無償で100台の機器をばら撒いてくれ。この件では淀川君(BB営業部・課長)と良く相談して」
「100台と言いますと、原価で言えば5千万円の投資ですね。話は承りました。淀川課長と話をしてみます」
「そうしてくれ給え」
「そうしてくれ給え」
恐らく、もう一度、私にネクタイピンをねだられたら、この安物を私にくれるつもりか。
然し、私は天邪鬼(あまのじゃく)。
そんな、安物は不要。
そんな、安物は不要。
早々においとましました。
社長室を出ますと、社長秘書に呼び止められました。
社長室を出ますと、社長秘書に呼び止められました。
相変わらず廊下ですれ違う人の発する言葉は同じ。
BB営業部淀川課長の席に行きました。
BB営業部淀川課長の席に行きました。
「課長、社長が釧路に無償で100台の機械をばら撒けと仰っていますよ」
「社長のいつものパフォーマンスですよ」
「社長のいつものパフォーマンスですよ」
「それは分かっていますが、一応、私の責務としては、あなたにこの事を言わなきゃならない」
「確かに承りましたよ」
「確かに承りましたよ」
「着任してみないと分かりませんが、色々とご相談することが出てくると思いますので、その時は頼みますよ」
急いで本社全部署長の席を訪問。転勤の挨拶。
皆さん、気の毒そうな眼差し。言う言葉も同じ。
皆さん、気の毒そうな眼差し。言う言葉も同じ。
最後に吉田部長の部屋に入りました。
「水無瀬君、分かっているね」
「はい?」
「はい?」
「そうしてくれたまえ」
「お話は、その件でしたか」
「お話は、その件でしたか」
「どうだい、帰りに一杯!」
「申し訳ありませんが、これから直ぐに帰ります。広島でまだまだやる事が沢山残っていますので」
「申し訳ありませんが、これから直ぐに帰ります。広島でまだまだやる事が沢山残っていますので」
陽が高いうちに帰りの新幹線乗車。
車中の缶ビールはお茶代わり。
車中の缶ビールはお茶代わり。
成る程、北海道の子会社の低迷し続けた元凶は、あの山川と坂上両名の低次元にあったのか。