採用二人目は、神童の瞳をした若者でした
1978年4月、私の最初の広島着任の時の辰巳所長。
当時、いつもいつもぼやくこと。
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広島の旧市内は、自然災害の無い街で温暖。
明日の生活の心配は無い。だから労働意欲に欠ける。
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反して、島根の人は、明日の為の蓄えをしなきゃ、厳しい冬を過ごせない。
だから、一生懸命に働く。採用するなら、島根県人。とね。
三次市からヒバゴンが現れた里への途中の町に、名の知れた商店の奥さんがいました。
度々中国放送(RCCラジオ)に投稿した彼女の葉書が読まれていましたから。
その奥さんが「広島で遊んでいる息子を是非にお願いしたい」と言ってきたそうです。
度々中国放送(RCCラジオ)に投稿した彼女の葉書が読まれていましたから。
その奥さんが「広島で遊んでいる息子を是非にお願いしたい」と言ってきたそうです。
面接をしました。年齢は21歳。
その日、彼はシャコタンの車を運転して来ました。
注)シャコタン→ 四輪自動車を改造して車高を極端に落とした車
その日、彼はシャコタンの車を運転して来ました。
注)シャコタン→ 四輪自動車を改造して車高を極端に落とした車
「中途退職後は、どうしていたんだ?」
「アパートにじっとしていました」
「アパートにじっとしていました」
「半年もかい?」
「そうです」
「そうです」
「一人じゃないだろう。ダチ(友達)は?」
「彼も仕事を辞めました」
「彼も仕事を辞めました」
「それでは、ワルの巣になるな」
「五人でゴロゴロしていました」
「五人でゴロゴロしていました」
「君の年の頃は不思議だね。何をするでも無しに群れたがるからね」
「皆、話をすることもなく、寝転がってじっと天井を見つめていました」
「皆、話をすることもなく、寝転がってじっと天井を見つめていました」
「眼だよ。君の眼は光る」
「それで分かったのですか?」
「それで分かったのですか?」
「君の瞳の中で、一点定まらない微かな光が流れる時がある。それでだね。でも、全体としては、凡人には無い光だね。何かを成し遂げることの出来る眼だよ」
「小さい時、周りの大人から神童の眼だと言われました」
「やっぱりそうか。もったいない」
「小さい時、周りの大人から神童の眼だと言われました」
「やっぱりそうか。もったいない」
「処で、あのシャコタン車は君のかい?」
「そうです。でも燃費が悪くてもう手放そうと思っています」
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「男前の君なら、シャコタンで女の子を相当引っ掛けたろう」
「市内に、左回りという公園があるのを知っていますか?」
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「そんな所があったのか?」
「流川からほど近い公園の周りの道路が左回りの一方通行なのですよ。家出して来て泊まる所が無い田舎娘が、ナンパしてくれるのを待っているのですよ」
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参考)当時の左回りは、袋町公園の周回。(赤の矢印)
その後、規制がかかり、大回りになった。(青の矢印)
この全体の地図は←ここをクリック
「やれやれ。公園を回るガソリン代がよく有ったものだね」
「ガソリンタンクは何時も空っぽですから、皆から10円20円を集めて1リットル単位での給油ですね。それから左回りに行きます」
「ガソリンタンクは何時も空っぽですから、皆から10円20円を集めて1リットル単位での給油ですね。それから左回りに行きます」
「ようそれで飯が食えたもの。誰も働きもせずに」
「それが、それが。聞いてくれます?」
「それが、それが。聞いてくれます?」
「何を?」
「誰もお金を持っていなくて朝から何も食べていない日。深夜になり、もう腹が減って腹が減って! 皆でアサリを採って食べようということに。潮が引いた橋の下に降りてアサリを鍋一杯に。アパートに帰って、湯がいてさて食べようとしましたら、口の中が砂だらけでじゃりじゃり」
「誰もお金を持っていなくて朝から何も食べていない日。深夜になり、もう腹が減って腹が減って! 皆でアサリを採って食べようということに。潮が引いた橋の下に降りてアサリを鍋一杯に。アパートに帰って、湯がいてさて食べようとしましたら、口の中が砂だらけでじゃりじゃり」
「あっはは!!」
「アサリは砂吐かせをしなきゃならんことを初めて知りました」
「アサリは砂吐かせをしなきゃならんことを初めて知りました」
「それは貴重な体験だね。処で、走馬灯は何回見たかね?」
「十回は見ましたよ。ダチの車で何回引っくり返ったことか」
「十回は見ましたよ。ダチの車で何回引っくり返ったことか」
「流石!流石! マンガの『あいつとララバイ』は読んでいるかい?」
「読んでいますよ。研二のバイクのやつですね。皆、大好きですよ。あれだけは毎週読んでいます」
「読んでいますよ。研二のバイクのやつですね。皆、大好きですよ。あれだけは毎週読んでいます」
「よっしゃ! いつから会社に来れる?」
「いつからでも」
「いつからでも」
「そうそう、君のお母さんには、君に当分の飯代を送金するように言っておくよ」
「有難う御座います。助かります」
「有難う御座います。助かります」
「これからも色々あると思うが、一つ一つの事柄は君の未来に向かっての踏み台だよ」
「どういう意味ですか?」
「どういう意味ですか?」
「君の輝かしい未来は、今日の一つ一つの積み重ねの結果と言う意味かな?」
「具体的には分かりませんが、何となく分かるような気がします」
「具体的には分かりませんが、何となく分かるような気がします」
この彼が私の社員採用第二号! 彼の名前は松川君(仮称)
キラリと光る眼差し。この時の彼、21歳。
キラリと光る眼差し。この時の彼、21歳。