❹社会への貢献の熱意は伝染する


20年後の今思い起こすと、「人は、社会に、人のために、何らかの貢献をしたい」と潜在的に思っているんですね。

(これまでの記事)
❶下請け火事による正念場 2017/11/7(火)

❷第一関門はこうしてクリアしたが 2017/11/7(火)

❸絶体絶命 それでも途はあるのか 2017/11/9(木) 

さて、続編


❹社会への貢献の熱意は伝染する

私達は工場事務所内の応接セットに戻りました。
着席するなり私はA社長にお願いをしました。


「社長、ペレットメーカーに電話をし、類似のカラーのペレットの納入先を知らせてもらう用お願いしてみて下さいませんか?」
「どうするのかね?」
「もしも在庫があったら分けてもらうためです。」
「色が違うかもしれませんよ。」
「似た色でしたら大丈夫です。マイナーチェンジとして対応します。」

A社長は受話器を取り、数社に電話をしましたが、あっさりと断られました。当然といえば当然。一種の企業秘密ですから、おいそれと公表してはくれません。

私は改めて私達が御社に作ってもらっているパーツは、私たちが病院の入院患者や老人施設の高齢者のために案出した特許製品であること。そして彼らが待ち望んでいるものであり、各病院や各施設では3月にこの製品を導入する旨、既に廊下の掲示板や壁などに掲示し、更に説明会まで行っていることを熱く語りました。

そしてもう一度ペレットメーカーに電話をするようにお願いしました。
再度電話をするA社長の語気は何となく違ってきました。
それが2社目、3社目となるほど、A社長の話し方は、入院患者たちのために是が非でも今すぐペレットが欲しいという内容に変わっていきました。

そして遂にある会社で納入先数社を紹介してもらえたのです。即座にA社長は、紹介された納入先にも、私がA社長に言ったこと以上に熱く語りました。

A社長の熱意が伝わったのか、在庫のペレットを譲ってくれる会社が見つかりました。余分なものでデッドストックになっていたペレットのようです。

私はノートを広げ、「有難うございます。これで一番目のペレットの問題は解決できました。二番目のここではフル稼働しており、余裕がないということですけど、」と言った途中、傍の女性事務員が口をはさみました。

「社長、私が早出して工場を動かしますし、辞めてから家庭の主婦をしている人たちにもお願いし、手伝ってもらうようにしますからどうでしょうか。」

この事務員はA社長の奥さんでした。それまでに私の言ったことやA社長の電話口で語っている熱気に心動かされたのでした。

A社長は苦笑しながら、「おまえがそう言うなら。」
すかさず私、「有難う御座います。これで入院患者さんたちの喜びの笑顔が目に浮かびます。」

三つ目の問題、温度と湿度によるパーツの伸縮については飛んでいました。

私は改めてA社長にお願いをしました。
「御社のパーツが出来上がり次第、次の工程となります。そこで、製品を3月中旬に各施設に納入するためには、遅くとも2月中旬までには仕上げて欲しいのですが。」

間髪を置かずにA社長は答えました。
「そのご心配は無用です。ペレットの入荷次第、直ぐに取り掛かります。正月返上してでも。ですから1月中頃までには発送します。」

A社事務所をおいとまし、社有車に乗るなり伊田課長が言いました。
興奮しながら、「驚きました。まさかです。部長、次に行きましょう。」
「次って?」
「ここから奥になりますが、ここ兵庫のもう一軒の下請けです。」

二軒目の下請け企業も社長が在社していて、A社が多忙にも拘わらず、我が社にいかに協力してくれたかを説明すると、すんなりと了解してくれました。

そこを離れた時、時刻は、とうに午後4時を回っていました。
これから会社に帰ったら午後6時を超えます。

私、「帰社せずに、このまま直帰しよう。」
伊田課長、「私は会社に帰ります。それから各地の下請けに電話を入れ、アポ(面談予約)をとります。」
私、「明日のスケジュールは?」
伊田課長、「明日は東海三県の下請けに行きますから、水無瀬部長、二泊の用意をしてきて下さい。」
私、「出勤時間は?」
伊田課長、「会社を午前8時に出発しましょう。」

そこで初めて昼食抜きであることに気付き、大笑いしました。
人は何かに集中すると、空腹さえ全く感じないんですね。

            つづく

(続編)
❺果たしてこのままで推移出来るのか 2017/11/13(月)