❷第一関門はこうしてクリアしたが


私に履歴書50代東京編

前回記事『下請け火事による正念場』(2017/11/7)の続編です。
https://blogs.yahoo.co.jp/minaseyori/64321536.html
 


寒い。まだ薄暗い中、西巣鴨駅から乗車し、大手町駅で下車。
地下道を通って東京駅へ。

朝一番の新幹線下りに乗車。
九時過ぎに本社着。

処が、男山取締役製造部長は出張で不在といいます。確か昨日の伊田課長の話では在社になっていたはずだが、太秦社長の命令で急遽のことだと言うのです。

彼奴(きゃつ)は逃げたな。やむを得ない。
伊田課長の運転する社有車で東大阪のHO社に向かいました。

指定通り午前11時に先方訪問。
先方は、専務と工場長と副工場長の三名が待ち構えていました。

話が違うじゃないか。
そう言おうとした矢先、専務が言いました。

「実は今日10時に家電のT社との打ち合わせで、私達3名が訪問することになっていたのですが、御社との緊急事態で私達は行けませんので代わって社長が謝罪のためにT社を訪問しています。それが終わってから帰社しますから社長は恐らく1時間ほど遅れますのでご了解ください。」

「分かりまし」
そう言って私は応接セットに座り話し始めました。

「御社に組み立てを依頼している機種は、病院や福祉施設の入院患者や入所者の為に、私、そして我が部署が考案した特許製品であることは皆さんご存知ですね。

それを図面に落としたのがここにいる伊田課長で、特許考案者は伊田課長の名前で申請したものです。

この特許製品は、入院患者や入所者の為に開発したもので、それと同時に病院などの職員の作業量を1割から2割削減できるものなのです。

我社と契約した施設では、この秋から既に『3月中旬からウズマサ製品を導入する』と施設内の至る所に張り紙をしているんですよ。」

そして、さらりと言いました。
「国の点数制度の変更で、来年4月までにこの製品を施設が導入出来無く、7月以降だとすると、(途中の計算省略)施設側の得べかりし利益、イコール、損害賠償額は最小で1億円。更に納期が遅れると、マックスで2億円は覚悟しなければなりません。」

更に続けて「御社は、放火されたとの弁明で、それらの施設を納得させ、チャラにすることができますか?」

無言でした。暫く、静寂が続きました。

その時、社長が帰ってきて席につきました。そしてこれまでの粗筋を専務から聞き取りました。社長は「うんうん」と聞いているだけで、その後は黙りました。

私は言いました。
「やらなければならないことは、御社がせめて3月中に我社の製品を組み立て完成させることです。」

社長は工場長に聞きました。
「パーツは揃うのか?」
工場長「メインの日立製コンプレッサーユニットも火事の熱を浴びましたが、最も高熱を浴びたであろう場所にある数台を動かしてみましたが大丈夫でした。内部の電気系統も問題はありませんでした。然し、本体の外枠や窓枠などのプラスチック成形品はどれも熱を浴び、微妙に変形していて使い物になりません。」

社長が更に聞きました。
「その成形品を今からオーダーしたらどの位の時間がかかるのか?」

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 工場長「今から指定色のペレット(プラスチックの顆粒)をオーダーし、それを成形し、パーツにし、それらを加工し組み立ててうちの工場に納めるのは早くて6月末。それから我社で組み立てて完成品とするのですから、ウズマサさんの倉庫入れは7月中旬から順次となります。」

社長は言いました。
「どうにかして早めることは出来ないのか?」
工場長「我社だけではどうにもなりません。これが最速です。」

社長は向きを変えて私に言いました。
「そういうことで、自社がどうあがいても7月中旬が最初のロット(製造出荷の最小単位)の頭出しで順次納入となります。」

これでは埒(らち)が明かない。私は語気を新た1オクターブ高め、先程の専務達に言った内容を繰り返しました。

「社長、この製品は入院患者や高齢者施設の入所者が待ち望んだ製品なのです。私達は、病気や高齢でやむなくベッド生活を余儀なくされている方達を思って開発した特許製品なのです。」

そこで私は応接テーブルを拳でドスンと叩き、声を荒立てました

「あなたには、あなた方には、あなたのご両親の年代の方々のこの製品に対する期待と、導入後の喜びの声が聞こえませんか。」

しばしの静寂後、社長が言いました。
「分かりました。我社としては御社のご意向に従います。それで我社は何をどうすればいいのですか?」

私「いいですか。3月15日から、我社製品組み立て用として2レーンをあけなさい。」

専務「パーツが揃わない・・・」

私はもう一度テーブルを握り拳でドスンと叩きました。
「成形品のパーツは、私が各下請けに3月15日まで納めるように手配します。」

そもそも私の言うことには無理があるのです。
通常での成形品は、ペレットの手配から始まり、そのパーツの組み立ても含めオーダーしてから最短で半年はかかる。それを3ヶ月弱で下請けにやらすという私の言葉には無茶がある。

社長と工場長は席を外し、まもなく席に戻りました。
社長「分かりました。3月15日には御社の製品用に2レーンを空けましょう。尚、それまでの成形品を使わない日立の冷却ユニットを組み込んだベース(土台)の部分を組み立てておきましょう。」

私「ありがとう御座います。これで入院患者や入所者の喜ぶ顔が目に浮かぶようです。」

更に付け加えた。「伊田課長、今の会話の内容の議事録を作成してくれ。」
「今ですか?」

「そうだ、その(1)3月15日まで私が成形品とそれらのパーツの組み立てたものをHO東大阪工場に納めさせるということ。その(2)HO東大阪工場では、3月15日から我社製品の組み立て用2レーンを用意するということだ。」

伊田課長は、我社の専用B5の便箋に、日時、場所、出席者全員の氏名を冒頭に書き、その2つの事項を書きました。

私はそれ手にとりを読み上げ、全員に問いました。
「これでよろしゅうございますか?」

全員、うなずきました。
そこで、その原文に出席者全員がサインし、全員分の枚数をコピーしてもらい、全員に配布しました。

帰路、伊田課長が興奮しながら言いました。
「部長、よくレーンを空けさせましたね。」

私「伊田課長よ、喜ぶのは未だまだ早い。年度末というと、どこの下請けも他の仕事を請ける余裕などは無いはず。にも拘らず、急遽、新たに仕事を請けさすことは一筋縄ではいかないだろう。

然も、下請け全社が同意してくれなくてはならない。一社でも同意してくれないと、パーツが一つでも欠けると完成品とはならない。」

           つづく

(続編)
年度末入札のあれこれ余談 2017/11/8(水)
https://blogs.yahoo.co.jp/minaseyori/64322557.html

私の履歴書50代東京編目次
https://blogs.yahoo.co.jp/minaseyori/folder/1537878.html