適切でないノロウイルス対策の現場
保育園、幼稚園、小学校の給食調理人のみならず。保育士、幼稚園並びに小学校教諭、並びにそれら施設の職員には、是非実践に役立てて欲しいものと思いながら書いています。、無論、養護施設や病院でも。
今回の記事は、前々回の下記の宿題について述べる。
『ノロウイルスの発生源、何故か追及せず』 2016/11/22(火)
(宿題)ケース2) 空気感染
※ 各施設ではノロウイルスの集団感染リスクに対し、文部省や厚労省の指導に基づく対策をしているはずだが、何故に依然と多発するか。それは、これらの手指洗浄を主とする指導が適切ではないからである。前々回と以下の今回の記事を読むと、それが分かる。
(参考)適切でない指導
Q3 ノロウイルスはどうやって感染するのですか?
A3 このウイルスの感染経路はほとんどが経口感染で、次のような感染様式があると考えられています。
(1)患者のノロウイルスが大量に含まれるふん便や吐ぶつから人の手などを介して二次感染した場合(以下省略)
ノロウイルスの感染経路
(感染症情報センター 2007/2/16)
ウイルスや細菌などの病原体の感染経路は、アメリカ合衆国の疾病対策予防センター(CDC)が1996年に発出した「隔離予防策のためのガイドライン」に述べられている3つの感染経路が基本である。それは「接触感染」「飛沫感染」「空気感染」である。これ以外に、食品を介する感染、昆虫などの小動物が媒介する感染といった経路もある。(中略)
(A)吐物や下痢便の処理や、勢いよく嘔吐した人のごく近くに居た際に、嘔吐行為あるいは嘔吐物から舞い上がる「飛沫」を間近で吸入し、経食道的に嚥下して消化管へ至る感染経路
(B)吐物や下痢便の処理が適切に行なわれなかったために残存したウイルスを含む小粒子が、掃除などの物理的刺激により空気中に舞い上がり、それを間近とは限らない場所で吸入し、経食道的に嚥下して消化管へ至る感染経路
が挙げられる。
(A)は「飛沫」(5μm以上の大きさの粒子)による感染であり、「飛沫感染」という用語がおそらく適切であろう。飛沫感染が発生する距離は通常最大1m前後とされている。このような経路でのノロウイルス感染伝播は日常的に発生していると考えられる。
一方、(B)については、小粒子が「塵埃」に相当し、「空気感染」の一種である可能性がある。
(1)Sawyer LA et al. 25- to 30 nm virus particle associated with a hospital outbreak of acute gastroenteritis with evidence for airborne transmission. Am J Epidemiol 1988;127:1261-71
1985年にカナダ・トロントの600床の病院で起こった感染性胃腸炎アウトブレイクの調査結果。11月10-22日に救急外来を訪れた患者、患者家族、そこで働いていた医療スタッフ、清掃職員などに胃腸炎が発生した。以下のことから、11月10-14日にairborne transmission(空気感染)が起こったと推測した。
☆ ☆ ☆
11月11-12日に救急外来に来た人の間に異常に高い胃腸炎発生率(33%)を認め、さらにそこで長時間すごした人ほど高い発症率を認めた
患者やスタッフと直接接触しておらず、短時間しかそこにいなかった清掃スタッフも発症した(39人中9人、救急外来の掃除をしなかった対照の清掃スタッフでは46人中3人)
☆ ☆ ☆
(2)Gellet GA, et al. An outbreak of acute gastroenteritis caused by a small round structured virus in a geriatric convalescent facility. Infect Control Hosp Epidemiol 1990;11:459-464
1988年12月、ロサンゼルスの201床の老人施設で感染性胃腸炎のアウトブレイク。発症したスタッフのうち9人が、直接的患者接触や具合の悪いスタッフとの接触を否定している。これらの者の感染経路としてAirborneがあったかもしれない、という報告。
(3)Marks PJ, et al. Evidence for Airborne transmission of Norwalk-like virus(NLV) in a hotel restaurant. Epidemiol Infect 2000;124:481-487
1998年12月、あるレストランで発生した感染性胃腸炎のアウトブレイク。食事をしている人の1人がテーブルで嘔吐し、同日同所で食事をしていた人126人中52人が48時間以内に発症。嘔吐した人から離れたテーブルでも感染者が出ている一方、同じレストランの別の部屋(区域分けされていた)で同じ日に食事をした人は全く発症しなかった。
嘔吐した人からかなり遠くに座っていた人も感染したこと、嘔吐した客が座っていた場所は他の利用客の共通動線上にはないこと、などから、airborne route(空気感染の経路)が伝播経路として最も相応しいことを示唆する、としている。
特に(1)の報告では、吐物や患者との直接接触の度合いが低い清掃スタッフがかなりの割合で発症しており、救急外来の清掃が発症の高いリスクになっている(RR3.8、p=0.029)ことから考えると、5μm以下の飛沫核が環境中に漂い、それを吸入・嚥下することによる感染伝播経路を考えざるを得ない印象がある。
さて、東京都豊島区の事例であるが、報告されている通り嘔吐発生後数日が経過した嘔吐場所が感染伝播の原因になっているとも考えられる状況を見ると、(B)のような感染伝播経路はあり得ると考えるのが妥当である。
嘔吐物などを不適切に処理、もしくは放置することにより、ウイルスを含んだ小粒子が環境(この事例の場合は床のカーペット)中に大量に残存した状態になる。
そのような状態にある、床などの環境表面を媒介物(fomite)として、そこから塵埃(dust)が舞い上がり、それを吸い込んだ人が感染したと推定される。
「感染症予防必携」(日本公衆衛生協会、2005年)では、空気感染(airborne infection)を飛沫核感染(droplet nuclei infection)と塵埃感染(dust infection)に分けている。
CDCの隔離予防策ガイドラインには飛沫核感染および塵埃感染という用語はないが、空気感染の説明文を読むと飛沫核による感染と塵埃による感染の2種類を指し示していると解釈でき、同一の概念と考えて差し支えない。
以上より、豊島区での事例は、空気感染の一種である塵埃感染という経路によって感染が拡大した可能性が示唆されている。
名称はともかくとして、このような伝播経路により感染が拡大するのを抑制するためには、嘔吐物の適切な処理が最も大切である。
処理に従事する者はマスクと手袋など適切な感染防御を行ない、嘔吐場所を消毒するなどの適切な処理を行なう。その場所でウイルスを不活化することを目指し、周囲に拡散させないように気をつけることが大切である。(以上で抜粋終り)
※ このノロウイルスの集団感染についての記事は、次に続きます。