竹林はるか遠く(3)


終戦前後の朝鮮半島と日本で、日本人引き揚げ者が味わった壮絶な体験を赤裸々に綴る、息もつかせぬ、愛と涙のサバイバルストーリー

竹林はるか遠く(2)


以下、この続編 『竹林はるか遠く(3)』 です。

          ◆       ◆       ◆

釜山駅は混んでいた。
朝鮮当局に「息子を待たないと行けない」と母が言う。
朝鮮当局「それはできない。ここで独立式典が開かれるから。行け」と言われる。
朝鮮人は一張羅を着て旗を持って駅へ歩いていた。
アメリカ兵もいた。

大日本帝国陸軍の倉庫は、今や人でごった返していた。
隅を見つけて寝ていると、男が怒鳴ってきた。
母が抗議すると男が母の首を絞めてきた。
私は男の足をつかみ転ばせた。
怒った男が私に向って来た。
母が「その子に触ってみな」と男にナイフを向けた。
男は去って行った。

コウが食料を調達してきた。
トイレに行った。ドアがなく、母とコウに見られないようにしてもらう。
若い女の人がトイレからでていったら悲鳴。
若い女が男四人に襲われていた。
私は何もできなかった。


独立式典。酒に酔った朝鮮人がコウに「男か女か?」聞いてきた。
コウは男と答える。「女に見える」と胸に手を入れて調べられた。
(こんなこともあろうかと胸を事前に縛っていた)
「平らだ、少年は面白くない」と酔った朝鮮人男は去った。

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朝鮮人男のグループが他で女を捜しまわり、見つけると引きずり出してゆく。
女の悲鳴がこだまする。
母とコウはその夜眠れなかった。
翌朝、母とコウの目は充血していた。

私が食料を調達しに行く。
コウに食料調達を指示してもらう。
小麦粉や腐りかけのバナナや牛乳や半分のパンを拾う(ゴミ置き場で)

小川で水を飲む。
叫び声が聞こえそちらを見ると、朝鮮人男が少女の上に乗っかっていた。
少女は必死に蹴って叫んでいた。
私は膝が震え、すぐに母とコウの所に戻る。
もうこれ以上ここにはいられない。

来週日本への貨物船で100名帰れるという。
しかし、一切の武器をを放棄しないといけない。
大切なナイフを手放す訳にはいかない。
コウが母とトイレに行きコウが歩き方が変になっていた。
母にコウは足を怪我しているからと言われる。

船が接岸。100人数えられる。
中年の日本女性が朝鮮の担当者に懇願、老いた父は乗せられず、船は水平線へ消えた。
一週間後に船が戻ったが、100人の中には入れなかったので乗れず。

引き続き、母はヒデヨを捜しコウは食料を捜す。
雨が三日降った。毛布にくるまったが、皆びしょ濡れ。
咳がでてきたのでアスピリンを飲む。
やっと79,80,81番目になった。船に乗り込む。
朝鮮当局の武器検査。

コウが足を触られたが、「怪我」といいなんとか通れる。
自分達の場所に座り、カビの生えたパンを食べる。
離れていく朝鮮半島をコウは見ていた。
「やっと!もう恐怖は無い」
おばあちゃんに会える。美しい祖国に帰れる。コウは泣いていた。母も泣いていた。

<6.ヒデヨは...>
ヒデヨは線路の分岐に出た。
太陽の方向を見てソウルの方向を決めた。
ヒデヨは二週間前に友と別れてから、ほとんどなにも食べていない。
月がでないので線路を外れキノコを捜す。野宿する事にする。
たくさんキノコがとれた、ザックなどにいれる。
火を焚いて煎って食べる。
森の奥に行って毛布で寝る。

突然起きる。朝鮮語の話声が聞こえる。毛布を隠し隠れる。
「火はまだ、温かい。月がでてないので遠くは行けないだろう」
朝鮮共産党兵士が近くまで捜索してくる。「16人捕まえた。7人の日本人、あとは反共産の者」
「今日は戻って、明日の朝捜索しよう。十分捕まえた」
ヒデヨは疲れ果てていたが恐怖で眠れず、空が薄いピンクになってきた頃、ヒデヨは歩き始める。
ソウルへの最短距離を行く。

日が昇ってきて歩きやすくなる。
崖があり、ツタや枝でなんとか降りる。
向こうに線路が見える。
線路を歩く避難民たちが見える。
寂しかったので嬉しく、追いつこうと早く歩く。
機関銃の発砲音。崖に戻る。

朝鮮語で「みんだ死んだ」と聞こえる。
朝鮮人兵士が、死んだ避難民の身ぐるみを剥ぐ。
金歯まで抜く、貯金通帳も盗む。
隠れる場所もないので松の木に登る。
朝鮮人兵士4人が崖を上ってきた。
4人が分け前を話し合っている。
分け前でもめて、ボスが部下を射殺。
ボスが歩いて去っていく。
部下2人も暫く後、去っていく。
ヒデヨはやっと木から下りる。

死体になった兵の軍服をザックに入れヒデヨは南東へ歩く、一日中歩く。
寒くなってきたので、ザックの下着や服などを着る。
線路を見失ってだいぶ経つ。
やまから離れてだいぶ水を飲んでない。
食べたキノコで下痢と腹痛になる。
小さい穴を見つけたので休む。
かなり寒く月もでてくる。寝る。

朝起きると霜に包まれている。息が白く足も胃も痛い。
このままだと餓死するのが解る。
寒い中、歩き続ける。
畑を見つけるが何もない。
寝たら凍死するのを実感する。雪が降ってくる。

ナナムにいた時は雪を喜んだが、口を開いても空腹は満たされない。
生き抜く決意をする。母と姉妹に会いたい。

雪がブリザード(暴風雪)になる。ボロボロの靴と服が凍る。全く前が見えない。
木の根元に座りこむ。何も食べずに歩ける?涙が落ちた。
また立ち上がりなんとか歩く。
赤い光が見えた。幻覚なのか農家なのか?這うようにしてふらふら歩いていく。
小さな農家に辿り着き、倒れた。

<7.難民キャンプ >

「あれが祖国よ」母が船上で朝霧の中言った。
島が見えてきた。

祖父母が食べ物をくれ、快適な寝床を用意してくれるだろう。
船酔いしてても興奮してきた。荷物を準備した。
船が福岡に着岸した。

日本人の男性が案内をメガホンで話してるが訛りで理解できず。
非難民の受付場所を探す。
何年も夢見ていた美しい祖国が、一面焼け野原で全て破壊されていた。
それに加えて日本人男性が「何で帰ってきた?お前らがいなくても困らない」私はアスファルトの穴に落ちた。


二時間歩いて難民キャンプに着く。
女学校の講堂。行き先が見つかるまで、100人位がそこに滞在する。
一角を見つけ、荷物を降ろす。

委員会の人が言うには自分で食料を調達する必要があるとの事、トイレは使えるとの事。
ザックには半分腐ったリンゴとミカンの皮があった。私はお腹がすいていた。
コウが「待って。食べちゃダメ」という。

外で石を組み合わせてコンロを作る。リンゴのカケラと水を入れ調理する。
母「祖国での最初の食事よ」と、木製の茶碗にそそぐ。
母「そして、焼きトウモロコシ以来の温かい食べ物よ」「この茶碗とここの少しのモノが我が家にあったものです」

祖国での最初の夜、毛布にくるまって三人で寝る。
空爆や強姦や泥棒に怯える事なく眠れる。
夜トイレに行く時はコウを起こした。

母が、郵便局から青森の祖父に手紙を送る。
二日後、配達不能と送り返されてきた。
母は心配し始めた。青森で何かあったのか。
コウが「すぐ青森の実家へ行こう」という。
母「ヒデヨなしで行けない」
「今、私達は、ヒデヨの場所よりは全ての面で安全」母は涙ぐむ。

不思議と父については考えない。
今、父は戦勝国ソ連の手にあるのだろう。父の安全を祈る。
朝鮮から船が来るたびに、母はヒデヨを捜しに行った。
ヒデヨについて説明し聞いて回った。
毎週、100人の避難民が朝鮮から来たが、ヒデヨの姿はなかった。

11月になった。
滞在一カ月を超えて、出てゆくように言われる。
母がヒデヨがいると抗議。
コウは今日出て行きましょうという。
事務所に、ヒデヨ宛てのメッセージ「青森にいる」を残す。
私達は朝鮮の列車に比べ日本の列車の小ささに驚く。


非難民と兵士で車内はびっちり。
車内は腐った魚の臭いでひどいが、祖父母に会える事で興奮していた。
母が京都でおりましょうという。
私とコウが「ぱあちゃんちにいかないの?」と叫んだ。
「何回も考えました」と母。

<8.京都駅での生活 >
京都は空襲を受けなかった唯一の街、教育機関もある。
コウが「母さんと北に行く」と言う。
母は首を振る。貴方の女学校の手続きを先にして、それから北に行きましょう。

列車内はかなり混んでいる。
3人よりかかってなんとか乗り込み、三日列車に乗った。
空腹と喉の渇きで胃が痛い。
ミカンの乾燥した皮を何回もかんでのんだ。母とコウも。

京都駅についた。場所を見つけ、井戸に水汲みに行く。三人で眠る。
翌朝、路面電車を初めてみる。
人々はきびきびと電車を降りる。
コウ「仕事に行くんだと思う」

別世界、駅は乞食・避難民・負傷兵などがいて、数フィート向こうはきれいな服を着て、仕事がある人々。

母は市役所に学校について聞きに行った。
母はコウに10円与えた。
駅ホテルのゴミ箱に行き、焼き魚やごはん、ピクルス、海草などを拾う。
駅に戻り、ごはんをひろげ、「学校について聞いてきました。明日、あなたを入学させます。」

私は「服がない、靴も破れていていけない。学校にいってたし教養もある」
コウはその日の残りナナムから持ってきたブラウスとズボンを洗って干す。
私はベンチの下で早く休む。
母に早く起こされ、コウに服を着せられる。
母と路面電車に乗り女学校に向かう。

車内で母が京都の説明をしてくれた。
学校についた。
みなきれいな身なりをしている。
緊張する。
事務員の女性がお茶を出してくれる。
校長と面会。


母が、通知票、家族の状況、父の職業、私の成績を説明する。
「生き残られた!」校長は言った。
「私達はやりました」母が言う。

                        つづく

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