阪神淡路大震災でのIM教室
さてその当日の1月22日(土)、予め決めておいた阪急電車に乗車。
向島係長は、前日、軽四トラックで事前に各家を周り、ママチャリを積んで、当日は渋滞を考慮して早朝に出発していました。
(昨日の前回記事)
車内はほぼ寿司詰め状態。
もう軽トラの向島係長は到着していました。
駅北口のロータリーの路上で円陣を組ませてから言いました。
「休日出勤で然もリスクも伴う今回の『IM教室』に、君達の家族には批判もあるでしょうが、先ずは逆の立場になり、あなた方家族が被災者となった場合を考えて下さい。
逆境の時に、何時間もチャリンコを漕いで来てくれる人がいるでしょうか。
今日は、君達が顧客の身を案じ、リスクを犯しながら何時間もチャリンコを漕いで訪れるのです。
本当は、震災三日以内に顧客を訪問したかったのですが、諸事情で今日まで延びました。ですが君達のそして顧客の人生の中で最も記憶に残る事柄の中の一つとなるでしょう。
今回のことを『MI教室』と敢えて命名したのは、君達が通常学ぶことの出来ない何等かのことを、この震災地神戸から学ぶからです。
例えば、
一つ、物事は画像や伝聞ではなく、事実を目で確かめることの重要性。
二つ、巷に言うCS、つまり顧客満足とはいかなるものか。
三つ、今回の訪問で、今後、顧客の心が、自分の心が、どう変化していくのかを実際に体験し知ること。
個人ごと、その学んだ内容は異なるかもしれませんが、間違いなく、君達は今回の訪問を通して何等かの重要なことを学ぶはずです。
それに気がつくのは顧客訪問中かもしれない。
帰宅後、あなたのお子さんに今回の話をした時かもしれない。
或いは、半年後、一年後、十年後かもしれない。と。
それから、
再度ここ武庫之荘駅集合を午後8時とし、皆、各々のエリアに出発。
私は28歳の山中社員(仮称)と出発。
私達の最遠距離地はJR神戸駅の向こうの新開地。
さて、
先ず、ここから神戸に向けて車はピクリとも動かず。大渋滞。
それに左に見える光景は、見渡す限り崩壊した木造家屋。
空爆映画のセットのようでした。
これが現実とは到底思えず。
自転車の後部に20リットルの水が入っているタンクを積んだ山中社員の自転車がパンクします。
やはりこういう道路では釘などを拾ってしまうのでしょう。
パンク修理も出来ず、それから彼の苦しいチャリンコ漕ぎが始まります。
途中、山手にある顧客である病院や学校を訪問。持参してきた物の中で先方が必要な物を手渡します。
その度に坂を上ったり下ったり。
道路をまたぐように電柱が倒れていて、その下を自転車を降りてくぐって通ります。
最遠方地の新開地の顧客訪問が終わった時にはほっとしました。
あとは帰路で、残るは二軒訪問のみ。
これまでの所要時間が片道のMAXですから帰路の所要時間を推量できました。
国道2号線⇒フラワーロードから三宮へ。
僅かに明治安田生命保険ビルが傾いていましたから、やはり建て直しをしましたね。
(右の画像は倒壊前の柏井ビル)
神戸市役所旧庁舎6階が潰れていました。
左 新庁舎 右 旧庁舎(6階が潰れた)
左 新庁舎 右 旧庁舎(6階が潰れた)
山中君の腕は小刻みに震えていました。
「寒いのか?」
「いえ、武者震いです」
帰路、最後の訪問地は、医療機器業者の本社ビル。
このビルの表面は無傷。
もうすっかり日は落ちていました。
6階?に灯りが点いていましたので、ベルを押すと確か総務課長只一人在社。そこまでエレベーターで上がり面談。
このビルを出ますと、近くの木造家屋から裸電球の灯りが漏れています。
まさか、喫茶店でした。
蛍光灯は割れ、裸電球の灯りですから薄暗い怪しげなスタンドのようなもの。
ここで熱いコーヒーを飲み、喉の渇きをいやしました。
無論、主人や店内のお客さんと地震の時の恐怖の会話をしました。
集合場所武庫之荘駅には30分前の午後7時半到着。
他の3チームも其々予定した先を訪問し終えて帰ってきており、然も全員無傷でほっとしました。
出発前には不平不満の顔をしている者が何名かいましたが、駅ロータリーで輪になり街灯の光を浴びる彼等の顔は満足感に溢れていました。
「この『IM(アイエム)教室』の本当の効果が自分の心と顧客の心に現れるのはこれからですよ」と私は言って解散しました。
尚、メンテナンス本部は、その翌週、50ccバイク新品30台購入し、BB営業部が販売した神戸一帯の顧客の機器点検で訪問しました。
他の部署が神戸に入ったのも翌週からです。
(余談1)数ヵ月後、そのバイク30台を女子社員に2万円台で売っていましたから、会社にバイクで通勤する赤ヘル女性は一気に増えました。
担当を外れた後は、暑中見舞いと年賀状などを毎年出していましたが、顧客から電話がきました。「手紙はいいから顔を出せ」と。
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