分からなかった複雑なる女心

 
 
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    私の履歴書・290
 
 
1988年4月4日入社の世子(よこ)。
4月下旬から、一人で営業活動を開始しました。
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.世子に言いました。
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「お客さんとのお茶や飲食の場合は、おごってもらったらいけませんよ。
必ず、あなたが支払いなさい」
 
続けて 「その額が一万円未満の時は、小口現金処理。それを超えると接待稟議書を事前に提出することになっていますから、何通か接待稟議書を事前に書いて提出しておいたらいいですよ」
 
つまり、お客との将来のトラブルの元を作らないようにしたのです。
世子の飲食店の領収書を垣間見た亜子(あこ)が憤慨しました。
 
「所長! 不公平です。世子さんにはお金を自由に使わせて、私には使わせないなんて!」
「亜子、何度も言ったでしょう。正社員とアルバイトの違いは歴然だと」
 
「考えさせて下さい」
「よく考えて下さいよ。私が今まで何度正社員になれと言ってきたか」
 
翌日か翌々日ですね。亜子が応接室のドアの前で小さく手招きしています。
亜子と一緒に応接室に入りました。
 
「所長!」
「なんじゃ?」
 
「私、本当に正社員になってもいいのでしょうか?」
「同じ事を何度も言わせるなよ」
 
「でも、心配ですわ」
「履歴書の事は、僕は何があっても言わない。言うとしたら君だよ」
 
「でも」
「そんなしょうもない事でくよくよしてどうするの? 前に進むしか途は無いのだよ」
 
「でも、煙草の火傷の跡を見られたのです。この間、温泉で」
「何処に火傷の跡があろうと隠したらいけないね。隠したら他人は隠さなきゃならない秘密の理由があると勘ぐるからね」
 
暫しの沈黙後、亜子は、正社員になると言いました。
 
 
そこで新たな問題。
亜子は再度提出する履歴書に記載する高校の名前が分からない。
 
私のノートには検討した三つの高校の名前はあるものの、どれか不明。
「控えを持っておけと言っただろう! 亜子!」
 
本社総務の顔見知りの女性にお願いをして、亜子の履歴書をこっそりとFAXで送信してもらいました。
 
そして亜子は、晴れて女性営業社員第二号になったのです。
嬉しそうでしたね。
これで世子に肩を並べることが出来ましたし。
 
でも、やはり第一号と第二号では、本社の見る目は違いました。
何かありましたら、女性営業社員第一号の世子に電話がかかります。
第二号の亜子にはかかってきません。
 
亜子にはそれが不満でしたね。
亜子は、夜の街『すすきの』に出かけた都度、私に言ったこと。
 
「所長は女心(おんなごころ)を知らない!」
実は、亜子は当初から正社員になりたかったと言うのです。
 
 
その都度、応答。
 
「何を言っているのかい。何度社員になれと言ったか。20回は言ったはず。
亜子の両親にもお願いしたじゃないか」
「私が断わっても、本当は正社員にして欲しいのに気が付かなかったの?」
 
「言ってもらわなきゃ、分かるはずがないじゃないか」
「だから所長は女心を読めないのよ」
 
この「所長は女心(おんなごころ)を知らない!」という言葉は、その後、私が札幌を離れるまでの三年間、言われ続けましたね。
 
まさか、あれ程断りながらも『嫌よ嫌よも好きなうち』とは。
亜子の女心は、確かに難しい!