追い詰められた私は敵陣に行くしか路は無し
お客さんの引越し手伝いに借り出されました。
道路からアームを伸ばし、庭の向こうの二階の窓からタンスを吊り降ろす。
道路からアームを伸ばし、庭の向こうの二階の窓からタンスを吊り降ろす。
この春、赴任してきた総務の田中係長の賃貸マンションは三階。
タンスや冷蔵庫の大きい物は、下からマンションのベランダへ吊り上げます。
タンスや冷蔵庫の大きい物は、下からマンションのベランダへ吊り上げます。
然し、
今日の一日一日が未来につながらない日々。
このままでは負け犬になってしまう。何とかしなきゃ。
このままでは負け犬になってしまう。何とかしなきゃ。
S電機㈱からの仕事の受注が駄目なら、これと同種同程度の仕事のある企業を狙うしかない。
相手は敵。恐らく初っ端から断られるだろう。
でも待てよ! SD社の課長に昔受けた恩を返していない。
でも待てよ! SD社の課長に昔受けた恩を返していない。
この納品業務で間接的にしろ恩を返せたら!
思い立ったら吉日。SD社広島支店に電話を入れました。
思い立ったら吉日。SD社広島支店に電話を入れました。
なかなか会おうとは言ってくれません。
然らば!
然らば!
「私の事は、御社東京支店の山田課長さんに聞いてみて頂けないでしょうか。
9年前コーヒーメーカーの香港招待旅行で大変お世話になりました水無瀬と言いましたら分かると思います」
9年前コーヒーメーカーの香港招待旅行で大変お世話になりました水無瀬と言いましたら分かると思います」
私の事を本郷課長が山田課長に確認してから会うことにしました。
約束した訪問日は五日後。
約束した訪問日は五日後。
電話を切るまで、電話の向こうの空気は緊張し続けていました。
電話の背後では微かに聞き取れる私を怪しむ会話。
電話の背後では微かに聞き取れる私を怪しむ会話。
その五日後、ユニック車に乗って約束の時間にSD社広島支店業務課本郷課長を訪問。
初対面の本郷課長は、温暖な人柄のようでした。
初対面の本郷課長は、温暖な人柄のようでした。
年齢は50歳前後でしょうか。
彼も、転勤で東京から広島に赴任したとの事。
彼も、転勤で東京から広島に赴任したとの事。
応接室で、面談の目的を話しました。
山田課長とは未だ出張中で連絡がとれていないと言う事です。
山田課長とは未だ出張中で連絡がとれていないと言う事です。
そこで香港での出来事を話しました。香港の夜の女性に有り金を払わされ、然も、ホテルで大騒ぎされた事。
文無しの私に煙草とビールを恵んでくれたのが山田課長であること。
彼は、苦笑しながら聞いてくれました。
文無しの私に煙草とビールを恵んでくれたのが山田課長であること。
彼は、苦笑しながら聞いてくれました。
彼の当然な質問。
「何故? お互いの会社の営業社員達も反対するだろうに?」
「ごもっともです」 そう言ってから私は説明しました。
「何故? お互いの会社の営業社員達も反対するだろうに?」
「ごもっともです」 そう言ってから私は説明しました。
★
実践の在り方としては従来の土方的作業マンによる納品作業からの脱却。
納品作業を介しての御社の顧客の感動と御社の評価。
納品作業を介しての御社の顧客の感動と御社の評価。
★
本郷課長は、じっと腕組みをして聞いていました。
私は、構わず話し続けました。
私は、構わず話し続けました。
それから窓の外に見える私が乗ってきたユニック車を見せました。
無言。
無言。
応接セットに戻ってからも長い沈黙が続きました。
後、彼はやおら立ち上がり、コピーした二枚の紙を持って来ました。
後、彼はやおら立ち上がり、コピーした二枚の紙を持って来ました。
それは、SD社の商品群別納品作業内容一覧表でした。
「これで検討して欲しい」
「これで検討して欲しい」
更に「貴社を採用するかどうかは私一存では決められない。最終決定は、支店長がする。
だから一週間後に再訪して欲しい。その時、支店長と第一営業課長に会ってもらう」
だから一週間後に再訪して欲しい。その時、支店長と第一営業課長に会ってもらう」
「有難う御座います。きっと支店長さんも喜ばれると思います。次回の訪問は一週間後の午後六時半ですね」
そう言って、その日はSD社を去りました。
そう言って、その日はSD社を去りました。
さて、その一週間後、約束の時間にSD社を訪問。
道は開けるか?