決断にはリスクを伴うものですね

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のりぴー、やはり「夫と一緒にあぶりをやりました」でしたね。
あとは、一日でも早く仮釈で出てきて、いい母親になってもらうことですね。
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さて、当時(1987年秋)一世を風靡したインベーダーゲーム機を盗んだ遠山氏。
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遠山氏が岩国警察に逮捕されたと聞いた夕刻、トラックで広島から岩国市錦帯橋に向かいました。



私の履歴書・166

ピカッ! ドッカ~~ン! ドッカ~~ン!
能登・輪島太鼓や佐渡・鬼太鼓どころの話ではない。

前が見えない程の雨。
国道2号線沿い売店着。誰もいない。

地主の家は徒歩一分。
私、地主との面識は無い。

「水無瀬主任、これ、犯罪じゃないですか」
「今は誰もいないから窃盗。積んでいる時に地主が来たら『強盗!』と叫ぶかも」

「わぁ~、僕、強盗犯ですか。地主は直ぐに110番ですよ! 警察が来たら、私も逮捕されるのですか」

「心配するな。もしも地主が訴えたとしたら、こちらは詐欺で地主を訴える」
「出来るのですか?」

「リース契約未締結の状態で、地主が占有権を主張してきた場合だ。
恐らく警察は介入出来ない。民事の問題だから。君も法学部だから分かるだろう」

「刑法は、友達の回答をカンニングして単位をとったもので」


注)簡単に言うと、例えリース契約が成立していても、所有権は地主には無い。
リースはレンタルと同義語。借りる期間の違い。所有権はリース会社(Sクレジット)にある。
現段階では、リース契約未締結状態だから、所有権は未だ我社にある。
問題は、占有権は何処にあるか。今回の場合、地主にあると看做される。


「四宮君、法律論は後にして、すまんが、とにもかくにも機器を積んでしまおう」

おびえる四宮君をせきたて、背広の上着を脱いで車外へ。
天は我に味方か。依然とバケツを引っくり返しただけでは済まない雨。


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どんな音をたてようが十メートルも離れたら聞こえない。
煙る国道2号線も、ほとんど車は走っていない。
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五台の機器の各重量は、80kg~200kg。
一台ずつネコ(二輪台車 写真)に載せて外へ出す。
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車のゲート奥行き寸法が短く、機器をゲートに乗せるのにぎりぎり。
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ゲートで持ち上げる時に、機器の脚が雨で滑って一センチでもずれたら機器が倒れる。
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私が背後から押さえる。四宮君が横でゲートのハンドルレバーを操作。
濡れているから滑りやすい。機器がずれて倒れたら、私は下敷きになる。

そんな悠長な事を言っていられない。
とにかく急げ! 命がけでしたね。

依然とバケツを引っくり返したような雨。
我等の頭の先から靴の中まで川に飛び込んだようなもの。

ワイシャツから肌色が透けて見える。
パンツの中までずぶ濡れ。

五台を積み込みました。
積んだ機器にロープをかけて一目散。広島に向かって発車。

運転しながら煙草を吸う手が小刻みに震えました。
寒かったから? それとも、興奮が治まらないから?


「警察が追ってきませんか?」と窓から何度も後ろを振り返る彼。
彼のこわばった顔に髪から滴が流れる。お互いさま。

今で言うと、銀行のATM(現金自動出入機)を、パワーショベルを使って本体丸ごと盗んで逃亡したようなものですからね。

「心配するな。この雨が上がるまでは、家主は気が付かない。それよりも、ややこしい組織にこの五台を押さえられていなくて助かったよ。こういう民事の場合は、本体を先に押さえた方が勝ちだから」



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「思い切った事をしましたね」
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「人生、何度か、右か左かの決断をしなきゃならん時がある」.
「今回は、その一つのケースですね」
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「処で四宮君、君は今付き合っている女性はいるのかね?」
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「学生時代に付き合った女性とは偶に手紙の交換ぐらいですね。
就職してからは転勤で遠くになり、会う事が難しくなりましたから」
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「その学生時代の女性が、君の人生にとって最良の女性だろう」
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「何故ですか?」

「学生時代は、学生時代の君の掛け値なしの魅力が最大の武器。
社会人になったら、君の社会的身分・地位・収入が君の魅力。条件が変わるのだよ」

「そう言われれば社会に出てから、他の女性と懇意にはならなかったですね。」
「その女性が善いとか悪いとかは分からんが、悪くは無いと思うならば一緒になるのがベター」

「腐れ縁でも」
「腐れ縁を、どう生き生きとした愛し合う関係の夫婦にするかが君の腕。要は君次第なのだよ」

「今回の強盗まがいの事がいい例かな。決断にはリスクを伴う。でも、全ての問題点が解決するまで待ったら、知らない誰かがこれら機器を引き揚げてしまうかも。そうなったら、もう手も足も出ない」

「彼女も同じだよ。彼女が君の知らない誰かと懇意になり、今日にでも婚約するかもしれない。
そうなったら、彼女との関係修復は絶望だろう。右か左か、決断するのは今だね」

「今夜、彼女の家に電話をしてみます」




さてさて、

顛末を本社営業管理部署に報告。
引き揚げた機器の転売は不可との指示。

顧問弁護士は、どうやら何もサジェスチョン(提案)を出せず。
税理士と管理部の連中は、あくまでも簡単な経理処理で済ましたがる。

他方、遠山氏に会いに萩拘置支所(山口県萩市土原字土原)へ。
当時、そこは静かな田園の中。面会しました。

坊主刈りで青っぽい頭。若々しく見えましたね。
「どうしたんや」
「すみません」
「機器は直ぐに引き揚げたよ」
「それは助かりました」



管理部が要求したのは、事件を掲載された新聞。
何しろ数ヶ月前のことだから、誰も新聞を残してはいない。

今頃何や!と言いたいのですが、ここはぐっと堪えて。
同僚の家で、偶々チリ紙交換に出す寸前の新聞を確保。



さて、この結末はと言いますと、
管理部は、決算時に、この全額450万円を損金処理。

我等の方は、会社に損害を与えた故、責任をとらされました。
Sクレジットの正式文書無しに出荷し、回収不能に陥りましたから。

辰巳所長は、部下の管理不十分故、給与の5%カットを六ヶ月。
所長には迷惑をかけてしまいました。

私は、一年間のベースアップ&昇給ストップ&営業諸手当のカット。
当初、軽いと思ったのですが、ボーナスまで響きましたから参りましたね。

尚、四宮君が、学生時代の彼女と結婚式を挙げたのが、それから三年後。