理不尽な顧客の教え・『顧客志向』とは

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時間だけがどんどん過ぎていきますね。
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一週間があっと言う間。
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今日と言う日があっと言う間。
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今と言う時間があっと言う間。

私の履歴書・163

1978年初夏、

新しい顧客作りに、手書きのダイレクトメールをも毎日何通かずつ発送していました。
その返信の中の一つ、新しく飲食業をしたいとの事。

場所は、山口県玖珂郡由宇町(現在 岩国市)
先方の指定時間、午後八時訪問。

国道筋に300坪の資材置き場があり、その道路沿いの100坪で飲食業をしたいというものでした。
携わる人は、四十代後半の奥さん。お手伝いの小母さんが日に二時間程。

時間帯別・車種別交通量の測定。国道沿いの飲食店状況調査。
こちらの提案は、間口二間の立ち食いうどん店。

メニューは、天ぷらうどんのみ。
他に、ドライバー対象ですから、コーヒー・ジュースの飲料。

打ち合わせの夜の訪問は一回につき平均三時間。
建屋の位置と構造・電飾看板の文字デザイン&位置等提案。

うどん玉・だしの試飲。使い捨て容器・割り箸等の選定。

天ぷらは、自家製で美味しい物を食べさせたいとの奥さんの要望。
訪問の都度、奥さんが揚げた天ぷらを試食。揚げ方等、あれこれ指導。

四回目の夜間訪問で、全てが決定。
処が、いざ契約の時に、奥さん、ラーメンもやりたいと言い出しました。

私は、メニューを増やすことに大反対。
私の試算は、日に30杯販売を5年間で設備投資代金回収。(奥さんの人件費を除く)

私の予想は、最低日に70杯以上売れる。ひょっとして二年で回収かも。
これに、ラーメンを増やしましたら一年以内に回収。

だが、奥さんの身体が持たない。

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この時に、敢えて反対しましたのは、東京時代に苦い経験があるからです。

山手線大塚駅からの道路に面したある飲食業とは無縁の業種の店。
1974年(S49)12月、路地側の四畳半を改装して、二坪の立ち食いうどん店を作りました。

ここでも同じく、自分で天ぷらを揚げて美味しいものを食べさせたいとの奥さんの要望。

「せいぜい日に50枚まで。後は他で天ぷらは揚げてもらいなさい」と何度も言いましたが頑固。
「私の揚げた天ぷらしか駄目!」の一本やり。

開店しましたら、いつも道路沿いにはタクシーがズラリと並ぶ人気。
残暑の頃、案の定、嘆かれました。

「天ぷら油が熱くて!熱くて! もう、くたくた!」
更に「水無瀬さんのおかげで、身体を壊しました! 責任とってェ~」

身体を壊してでも、他の人が揚げた天ぷらを顧客に食べさせたくないのです。
且つ、売り切れで男の客を失望させたくもないのです。

実は、流行る本当の理由は、小柄な可愛い奥さんが揚げる天ぷらだからこそ。
無論、大半は男の固定客。

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ここ、由宇町の場合も、似たような事態を想定できました。
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奥さん、美人とは決して言えませんし、可愛いとも言えません。
色白にちょっぴり小太り。
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でも、何となく憎めなく、親近感を抱く女性。
これは危ないと思いました。
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ひょっとして、予想外に売れて、大塚の立ち食いうどん店のように嘆かれるぞ。

「機器を増やしたら、私の方は儲かります。でもそれは駄目です」
「あなたは、客の私の頼みを聴かないの?」

「東京時代に、あなたと同じ考えの奥さんに、仕舞にはぼやかれましたので堪忍して下さい」
東京・大塚の話をしたのですが、彼女、聞く耳は持ちません。

午前一時、それまでじっと聞いていた旦那が一言。ドスの効いた声で。
「女房の言う事を、聴いてやれ」

午前一時半
「分かりました。仰せの通り致します」

そこで契約。前金領収。

最初の初夏一ヶ月は、毎日が当初想定した最低販売量。
処が、急に売り上げが上ったとの事。これで安心と胸をなでおろしました。

初秋の頃、呼び出しがありました。
指定時刻のいつもの時間の午後八時。

今度は、主人の事務所です。
床は板の間で歴史を物語る油を引く値打ちのもの。


突然、奥さんがわめく。
「水無瀬さん、あなたは何故ラーメンに強く反対しなかったの?」
「あれ程、反対したではありませんか。売れないのですか?」

「売れて困っているのですよ!」
「売れているなら、問題が無いではありませんか。何ぼ売れているのですか?」

そこで、彼女の付けている毎日の売上帳を見せてもらいました。
予想外の売れ行き。MAX予想の倍以上は売れていましたね。

「私、もう身体がクタクタ!」
「だから言ったでしょう。ラーメンは止めた方がいいって!」

「何故、あなたは、反対をしてくれなかったの?」
「反対したでしょう。私の反対を押し切ったのはあなた達ではないですか」

「水無瀬さん、今の事態を予想できたのでしょう?」
「ひょっとして、と思いましたよ」

「何故あなたは、ラーメンを止めてくれなかったの?」
「止めたじゃないですか。止めても押し切ったのは貴方達じゃないですか」

「水無瀬さんの止め方は、止めたうちに入らないでしょう」
「どういう意味ですか?」

「本当に止めたかったら、土下座してでも止めるべきです!」

成る程、そういう言い方もあるのだ。

彼女、更に「私を止め切れなかったあなたは、土下座して私に謝るべきです」
「何故、土下座をしなきゃならんのですか。寧ろ、売れて私に感謝するのは貴方達ではないですか?」

主人「土下座して謝れ! そしてラーメン用の機器を引揚、その分の代金を返せ!」

激しい剣幕でしたね。
然し、どう考えても理不尽。

堂々巡りが延々。埒があかない。
切れた主人「引揚なかったら、君の広島営業所に重機を持って行き、建物をぶち壊すぞ!」

やむを得ない。
「分かりました。あなた達の要望にストップをかけれず、申し訳ありませんでした」

そう言って私は土下座。油が敷かれた木の床に頭を下げました。
そして、後日、ラーメン機器を引揚、その機器代金を返金しました。

不思議でしたね。儲かり過ぎているのに。ラーメン機器代なんてもう回収しているのに。
彼女、天ぷら油の熱にやられ、疲労が重なり、狂ったとしか思いようが無かったですね。

然し、冷静に考えて見れば、全く別の視点がありました。
「自分の意思に反する顧客の要望に妥協したらいけない!」と言う事を身体で教えてくれたのでしょうか。

マーケテングにおける「顧客志向」とは何ぞや? の問題提起の出来事でした。