広島着任早々、私、桜の下でノック・ダウン

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私の履歴書・161

1978年4月。広島営業所着任初日、出社しましたら、私の机はありません。

この三月にBB課新卒二名増員。それに新CC課の三年生一名増員。
事務所が狭くて私の机の置き場が無いのです。

ですから、当分、窓際の通路に置いてある折り畳みの椅子が私の座る場所。
人が通る時は、立たなきゃなりません。

着任した最初の金曜日に花見をすることになりました。
広島の桜は三月下旬から四月上旬ですからね。


辰巳所長(43歳)の号令『金曜日、午後六時半比治山公園集合』
当日、早目に帰社した私と、公務員OB(61歳)、事務員の水野嬢(21歳)の三人が七輪・やかん・一升瓶などを持ち公園に上がりました。

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そして比治山公園で場所取りをしていた工務担当の柳さん(37歳)と合流。
七輪に火をおこし、やかんで日本酒を沸かしました。

処が、七時になっても来ないのです。
水野事務員に聞きました。

「この営業所は、どないなっているんじゃ? 時間の概念が無いのか?」
「いつもこうです。定刻に集まったことは無いのです」

「所長も定刻にいつも来ないのか?」
「はい」

「今日は何時頃、始まるのじゃ?」
「九時頃だと思います」

「なんとぉ~! 未だ二時間もあるじゃないか!」

ビールを持って来る役目の者、小カレイの干物・つまみ等を持って来る役目の者等も未だ来ない。
それに殊更寒い。
ブルブル震えんばかり。

こうなったらと三人で始めました。

飲む物はやかんの燗酒のみ。
コップで乾杯。

事務員の水野さん、お酒に弱いと言いながらも飲みました。
やがて、水野さん、ぼんぼりに赤く照らされて、色っぽくなりましたね。

皆が、ぞろぞろやって来て、ようやく所長が「乾杯!」の音頭をとったのが九時前。
その頃の私は、熱燗でもう出来あがっていました。

九時半頃から、周りのグループがどんどん引き揚げて行きました。
隣の空いた場所に、25人位の若者グループがやって来ました。

その内、女の子が三人。
円陣で座りました。
連中の服装は、男も女の子もオール黒の皮ジャン。

リーダーらしき男の頭髪はリーゼント。
暴走族。

その中の一人の女の子が、特別に可愛い! 
彼女だけが光る!

彼等のグループと背中合わせの我社の三人が、彼等と会話。
お互いにビールの注ぎっこ。

三人の中の一人が、特別に可愛い娘の所に行き、ビールを注ぎながら彼女の肩に手を回していました。

「こりゃ、やばい! 所長、もうお開きにしましょう」
「若いもんが未だ飲み足らんと言っているからもう少し」



11時頃ですね、ぼんぼりが半分消え、薄暗くて周囲が見え難い。
御座に座っているのは、我等のチームと隣の皮ジャン暴走族グループのみ。

所長の号令で、帰る準備。
御座の上の物の後片付け。

薄暗い向こうで、何かもめ事が起きている。
よく見えない。

うちの会社の若い連中と、暴走族の連中とが殴り合いをしている等とはつゆ知らず。

「靴が無いぞぉ~!」とは誰かの声。
私の靴も無い。
散乱している。

「靴はどこ~」と言いながら、腰を曲げて下を見ながらうろうろ。
何しろ、御座の上でも薄暗い。

何かが突然下を向いている私の眼前に迫る。



ざわざわと声がする。

目を開けると、輪になった人の顔。
皆、私を覗き込む。
その中に警官二人。

私、仰向けに倒れているのだ。
何故?

どうしてこうなっているのか理由がさっぱり分からない。
記憶が無い。

靴を探しに下を向いている私の頭を暴走族の一人が両手で押えての膝蹴りだそうだ。
気絶して引っくり返った私。

起してもらって地面に座る。
口の中は、生暖かい。
それに、何か異物。

「ペッ」と吐き出す。
血の中に小さな塊が二個。

歯だ! 歯が折れたのだ。

でも、舌で口の中をまさぐるも、折れた場所がない。
観て貰うと、前歯二本が折れたのではない。

前歯二本が楔形(くさびがた)に割れたとの事。
爪が剥がれるように一枚が二枚に。

警官が言う。
「このこと、事件にしますか? 事件にした場合、全員の調書をとらなければなりません。
それにマスコミに報道されるかもしれません」

所長、
「事件にしません。何卒、何卒、穏便に!」

両脇を抱えられて比治山公園を降りました。
その道すがら、私は大声でぼやき続けました。何度も。


「どないなっているのだ!!...この広島営業所は!!...所長も部下も、皆、時間さえ守れない。..守れないどころか、二時間も遅れて当たり前とは!!
可愛い娘がいたら、チンピラの女でも直ぐに手を出しよる!!...挙句の果てに、チンピラと殴り合いまでしよる!!」


さすが! 『仁義なき戦い』の街・広島。 恐れ入りやした。


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