人の豹変の契機とは

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 内閣府の意識調査によると「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という質問で女性の賛成派は20代が60代についで多いという結果が出た。
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東大卒のマヤさん(26歳、シンクタンク勤務)も根っからの専業主婦志望だ。せっかくの学歴がもったいなくありませんか? と聞くと、「そうなんです。高校生のころもっと遊んで女子大とかに行くべきでした」と嘆く始末である。
プレジデント6月10日(水) 11時30分配信 / 経済 - 経済総合
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成る程、今の20代女性は「亭主は元気で留守がいい」にあこがれるのですね。


私の履歴書・149

BB第二課長の清水君の部下に皆川君がいました。

清水課長は、私と同い年で生え抜き。
熱海の社員旅行で登場していますね。
皆川君は洋子さんに「私の趣味ではない」と言われた男でしたね。

この皆川君、二浪して入ったR大学から新卒で入社二年目。
「泣き虫の皆川」と称して、叱ったらジワッと涙を浮かべる。

背広の襟とネクタイには常にシミ。
彼の住居は独身寮。と言っても、昔は小料理屋の木造建物。
それを東証一部のA社が購入して独身寮に。更にそれを譲り受けた物。

その寮とは、隣家のブロック塀から腰の高さの窓際まで週刊誌やゴミで堆積している代物。
別名ゴミ屋敷。
その時から十年後、取り壊して更地にする時に、このゴミだけで4トントラック二台もあったとか。

彼の脚の皮膚の中では虫がうごめく。ダニ。
それを得意げに見せびらかす。
顔はよしもと芸人のほっしゃんにそっくり。

その彼を新宿区文京区担当にしたのだから数字が上るはずはない。
それに新宿区は、老舗メーカーN社の本社所在地で強固地盤。

取得(とりえ)は真面目さだけ。
彼の出身大学の伝統そのものの真面目さである。

清水課長は彼をもて余しましたね。
それに彼以外にも、数字の上らない部下を複数抱えていましたからね。

「水無瀬よ! 皆川の面倒をみてくれ」
「そんなバカな。俺は平社員だよ。それにおまえの課とは部署が違うから駄目だよ」

「皆川は、君の言うことだったら素直に聞く。でも、ワシの言うことはちっとも聞かん。
フンとあっちを向く。強く言ったら泣きよる。それにワシは他人を指導などするタイプでもないし、指導も出来ないから頼む!」
「おまえに頼まれたらしゃ~ないな。時間の空いている時だけなら」

以降、皆川君は三階の私の所に度々訪問顛末報告に来ました。
運転免許が無く歩き。でも真面目ですから、訪問件数はこなしていました。

「どうしたら数字を上げれると思う?」
「新宿の婦人部長を落としたらいけます」
「よっしゃ、分かった。じゃぁ、その婦人部長を落とそう」

新宿の婦人部長とは、酒販店の女将で年齢は五十歳代。
小太り色白で聡明だそうです。

彼のこの半年の訪問回数は五回ですが話もしてくれない。
いつも店の奥の円椅子に座っているのだそうです。

「これから毎週同じ曜日に訪問し、あと五回は門前払いされて下さい。
その五回目が済んだら報告に来て下さい」
それから約一ヶ月と一週間後、五回訪問を終わったとの報告。

「天気予報を毎日見て下さい。最後の訪問から十日後位が良いでしょう。
朝は曇りで昼から雨の日に同行しましょう」
「??? 何故雨の日ですか ???」
「行ったら分かる」

やがて
「水無瀬さん、今日、昼頃から東京は雨との予報です」
おあつらえ向きの雷雨がやって来るというその日がやってきました。

彼を助手席に乗せ、外苑東通りの東側に停車。
広い道路の向い側が目指す婦人部長宅の酒販店。

停車位置は横断歩道から50mほど離れたバス停に近い場所。
雨が落ちてくるのを車中でじっと待ちました。

「契約書は持っているか?」
「カバンに入っているはずですが確かめます。でも今日契約できるのですか?」
「半々かな? ひょっとして7:3かも」

待望の雨が落ちて来ました。

「いいか、バスが通り過ぎたときに車から出て全力で走れ! そのまま横断歩道を走って向かい側のあの酒販店に飛び込め!」
更に「走って停まるのは店の奥の婦人部長の座っている前だ!」

「150mも走るのですか? 雨に濡れた姿でびっくりしますよ。そんなこと、出来ません」

「これが君の人生の勝負だ。直ぐに婦人部長の前でこう言え。
『婦人部長さんに是非お会いしたくバスから降りましたら、急に凄い土砂降りになりました』と」

「それからどうなるのですか?」
「行ったら分かる。但し、商売の話は一切するな! 雨の話だけにすること。濡れた顔等は拭かないこと。どうせ君のハンカチなんか汚いし見苦しい。」

雨脚がどんどん強くなりました。
「水無瀬さん、これじゃ、走っている途中でずぶ濡れになりますよ」
「未だダ! 未だダ!」

彼に再度念を押しました。
「いいかい、私はここで五分間待つよ。五分以上店から出てこなかったら上手くいったと看做す。そして私は会社に帰るよ。仕事があるから。」

空は急に暗くなり、ピカッ! ドッカァ~~ン! 
いよいよ来なすった!

目の前の道路は白煙。
横断歩道の信号は青。
バスが目に前を通り過ぎました。

「よし!今だ! 行けぇ~!」
「今からですか?」 泣きそうな声と顔。
「ばか者! 早く外に出んかぁ~!」

彼は、全力で約150mを走り、酒販店に飛び込みました。
あれじゃ、ずぶ濡れだな。私はにんまり。


五分経っても十分経っても彼は店から出て来ませんでした。
私は、車をUターンしてその店の出入り口が見える路肩に停車して待ちました。

雨は依然と激しく降っています。
四十分後に彼が店から借りた傘をさして出て来ました。
そしてバス停に向かって歩き出しました。

私は、車を彼の横に付け、彼を乗せました。
「水無瀬さん! 水無瀬さん! びっくり! びっくり!」
「どうした? 何かあったのかい?」

「契約書に判子、もらえました! それに二台も!」
「それはおめでとう!」
「何か、夢のようです」


「濡れて行ってどうだった?」
「あのね、中に飛び込んで婦人部長さんの前で立った時は、水滴が頭から顔からボタボタ。そこで言われた通り話しました。会いたくて来ました!と。

そしたら、婦人部長さんは、奥からタオルを持ってきて『これで拭きなさい』と言ってくれました」

「お~、そこまではシナリオ通りだな」
「婦人部長さんが色々と私の事を聞いてきましてそれに返答しました」

「そこまで行けばしめたもの」
「婦人部長さんは、突然、契約書を出しなさい!と言いました」
更に「婦人部長さんが金額の書いてない契約書に判子を押して『誠意ある価格を記入して下さい』と言われたものですから- - - - 」

「何ぼで契約したのかい?」
「それが安いです」

「『安売り王の皆川』って課長にまたぼやかれるぞ!」
「感激のあまり、数字を記入する時は手が震えました。安過ぎるといわれたら、自分の給料で補填してでもこの契約は価値があると思いましたから」
そう言って彼の目から涙。



それからですね。彼の目の色が変わりましたのは。

彼の仕事には色々と創意工夫が加わりましたね。
辛い営業職が、辛くても楽しい仕事に変わったのでした。

やがて、イッチョ前の営業マンになり、数字も上がりましたね。
但し、「泣き虫の皆川」だけは変化なしでしたよ。