美しい女性は雇用すべからず?

1974年(S49)初秋

素敵な女性が中途入社。上野洋子(仮称)二十五歳。独身。東北出身。
役人OBの知人のお嬢さん。

東京支店は、蜂の巣。昨今でしたらイケメンで蜂の巣でしょうね。
意外な展開に、意外な結末となったお話です。

私の履歴書・133

掃き溜めに鶴でした。

金魚の平間運呼の情報によりますと、銀座松屋(百貨店)に勤務も、上司との不倫関係で松屋を退職。

席は事務所二階の総務課の空席だった机。皆に背を向けて。
ここには社判の箱などを置いていました。

事務所二階の男連中は色めき立ちました。いつも朝礼が終わりましたら、秘密の喫茶店に集合するBB課の連中は、なかなか会社を出ようとしないのです。

彼女の背後一メートルに近づいただけで赤面する40歳代男もいましたね。
男連中は二階ではおとなしく、三階の我等の所に来てあ~やこ~やと騒がしい。

私はいつもの通り彼女の座っている机に行き、その上に置いてある社判で契約書の冊子に押印。
椅子に座れないのでしゃがんで彼女と向き合いながら。

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成る程!成る程! 男連中が騒ぐのも無理はない。
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今で言えば、二十代中頃の松たか子の瞳に涼しさと光をプラスのオーラ。
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金賢姫(キム・ヒョンヒ)の若い時とは、雰囲気が全く違う。


「退屈やろ」
彼女、にこりとしてうなずく。
「手が空いていたら、これにゴム印を押しといて」

私は一旦三階に上がって暫らくしてから再度二階に捺印された書類を受け取りに行きました。
彼女は、新たにすることが無いのでじっと机でしゃちこばっています。

「木下君(会計・私と同じ年齢)、新しく入った人には何か仕事を与えなきゃ。
彼女、じっとしていたら緊張しっ放しじゃないか。そうでしょう、彼女!」
「はい」

翌日
「ここの会社に来て肩が凝ったでしょう。肩をもんであげようか?」
彼女、微笑みながらこっくりとうなづきました。

私は肩を揉んであげました。
揉みながら木下君に言いました。

「君は、女性の心が分からん奴だ! わしを見習え! ねぇ、そうだろう、洋子さん」
彼女、クスクス。

それからと言うもの、洋子さんに何かを依頼しますと、てきぱきと処理してくれました。
それを横目で、にぎにぎしく私を睨んでいる木下君。鋭い眼光。さてさて。



他方、二階の連中は相変わらず朝から三階に来て洋子さんの話ばっかし。
私に「どうしたら女性とスムーズに話が出来るのですか?」等と聞いて来る。

余りにも五月蝿いので怒りました。

「いい加減にせんかい! そんな事を言っている奴にろくな者がいない!
好きなら好きと本人に言えば良いじゃないか!」

「恥ずかしくて言えません」
「アホか! そんな事も言えないで仕事が出来る訳がない!」

それから数日後、意を決した26歳の皆川君(仮称)が、夕方、皆出払っている二回事務所で洋子さんに告白したのです。

「私と、付き合って下さい」

彼女は即答。
「あなたは、私の趣味に合いませんわ」

翌日から、二階の連中が三階に来てこの話でもちきり。
私は大笑いしました。

以後、社内での洋子騒動も治まりました。
男連中は皆、洋子さんの趣味に合わない事を自覚したのです。

しかし、本当の騒動はその三ヵ月後からでした。


尚、後日談ですが、外からの公衆電話で洋子さんに何名かがアプローチ。
子持ちの男も。皆、断られたとのこと。