(No.128)超やり手から学ぶ

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突然、私に会いにきた六十歳代のゴルフ焼けの男。
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彼が、先日世間を騒がせた「円天」の「波会長」のお友達とは知りませんでした。
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私の履歴書・128

子会社の経理を担当していた岡田課長が、我が営業部東京駐在課長として着任。

岡田君は、私が留守の間に、ライバルのF社からの私宛の電話に応対。
F社が卸取引している千葉の石田商事に同行して欲しいという内容。
岡田課長は、翌日私に連絡無しに一人で千葉の石田商事に出かけました。

帰社後、彼は、興信所に調査要請。
「石田商事の内容を、よく書いてくれ!」と付け加えて。
帝國興信所は期待に応えて「短期長期的にも懸念無し!」と言う調査報告書を持って来る。

何故か課長は私に同行して欲しいと言うので已む無く石田商事を訪問。
石田社長と面談。ピィ~~ンと来ましたね。この社長は、夜逃げすると。
二十代前半に、夜逃げする数人の社長と同じ匂いがするからです。

岡田課長は得意げ。「水無瀬君、是非、この会社と取引をしよう!」
そして「水無瀬君、君の名前で継続卸取引契約稟議書を書いてくれ!」と何度も。
私は断りました。「夜逃げする社長と取引などとは、とんでもない!」

案の定、半年も経たない内に「事務所に電話しても人が出ない!」と大騒ぎ。
取引をしていた岡田課長が駆けつけると、事務所はもぬけの殻とか。

人を判断するには、第一印象が如何に大切かを痛感しましたね。
別な表現をしますと、夜逃げのオーラが出ているとでも言いましょうか。

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或る日の夕方五時に帰社しますと、お客さんが待っていると言うのです。
面談の予約をした覚えが無い初めての人です。

チラッと垣間見ると何となく会いたくない気分。
「今日中に済まさなければならない事務処理があるから、手が空くのは午後九時になります。
別の日でも」と言うも、待っているとの事。事務処理も無い私は机で時間を潰しました。

午後八時半に面談開始。名前は宮本。一種のブローカーですね。
年齢は六十歳前半。背丈とスタイルとしては、吉本新喜劇池乃めだか

彼は朴とつと話す。ゴルフ焼けでこげ茶の顔。
自分の構想を描いたレジメ(要約書)にうつ伏せのようにして説明を続ける。

低くて小さな声。他人が聞いていようがいまいが無関係。
この話し方は凡人ではない!と直感。 

私の心に、いたずら的な気持ちが湧き上がりました。
この人にやられるか、それとも、逆にやってやるかの勝負。知恵比べ。

数日後、彼の指定する横浜の横東土建㈱(仮称)の事務所に行きました。
横東土建㈱が宮本氏の提案した新事業を展開していたのです。

横浜は、中心部を離れますと住宅地は丘の連続。
当時、その丘の斜面の段々畑が次から次へと宅地に。

この斜面に残され、無用になったため池を超破格値で買い取るのです。
一つのため池は五百坪から数千坪。水利権者達をいかにまとめるかが勝負。

買い取ったため池の水を抜いて、その跡に建築残土を有料で受け容れます。
これだけでも、充分な利益を出せます。

残土で一杯になったら最後に山の土をかぶせて、1年間寝かします。
際立った沈下が収まりましたら、不動産屋と組んで宅地として売るのです。

購入者は都内在住者ですから、ここは池の跡地など知る由もありません。
せいぜい元畑と思うのが関の山。

是非私の意見を伺いたいとの要請で、埋め立て工事会議にも参加。
呆れた話と、未知な分野なので言葉が出るはずは有りませんでした。

彼の小間使いの四十代の男が、廊下で私にそっと耳打ちしました。

「宮本さんは、今、大手スーパーに追われています。食品を納入する仲介をしたのですが、その食品が倉庫から突然消えてしまったから。」

更に「もう一つ。トヨタのデーラーと民事裁判沙汰になっています。トヨペット・バン六台の代金を支払っていないので。」

私は大笑いしました。
「あはは!然(さ)も有りなん! なかなかやるじゃないか!」


この宮本氏が、この横東土建㈱に新たに提案したのは、定款変更してコーヒーマシンによる事業展開。
一種のコーヒーコーナーショップ作りです。

契約条件はマシン一式@90万円の50台で4,500万円。
我社の与信限度は2,000万円。

つまり、我社では、担保無しでは額面合計2,000万円までの手形しか受け取れないのです。
残額2,500万円分は担保を求めました。

埋め立てた土地を担保にしても仕方が無いですから、横東土建㈱をバックアップしている資産家にマル専での分割手形20枚を振り出してもらいました。

つまり、我社が、銀行宛に「マル専口座開設依頼書」を書いて、その資産家がその依頼書に署名捺印をしましたら、専用口座開設と手形用紙20枚を発行してくれるのです。

ブローカー宮本氏は、このシステムについて私に何度も詳細を聞いてきました。
一種のケーススタデイの形式ですね。真剣そのもの。流石でした。

そして彼は、三重県に出かけるのです。
2~3泊して帰って来ましたら電話があり、またまたマル専手形に関して相談したいとの事。

この三重県行きと私への相談が交互に数度繰り返されました。
私の相談料はと言えば、都度数百円のランチとコーヒー一杯にまけときました。

                        つづく

参考)マル専手形
割賦販売専用の約束手形。昭和40年代~50年代に車を購入した方は、この手形を発行した覚えがあるでしょう(今はオートローン)。 当座預金口座を持たない個人や、小切手しか振り出せない個人が、分割回数分の手形用紙を銀行から購入し、これに分割金額と満期日を書いて支払う。
この手形には銀行でマル専(専の字を○で囲む)のゴム印を押すのでマル専手形と言います。