宿の風呂での裸の付き合い

私の履歴書・107

高松の所長は、もう直ぐ40歳ですが独身。
この夜、彼のボヤキをしっぽりと聞くはめになりました。

20歳代後半に名古屋の女性とねんごろになったそうです。
処が名古屋の女性と結婚式を挙げるとなりますと当時のお金で300万円かかるので断念。
京都市内で30坪土地付き新築が500万円台の時代。

私「前任地の金沢営業所の独身の女性事務員、なかなか素敵じゃないですか?」
彼「あれははちきんで嫁さんにしてしもうたらえらいこっちゃ!」

私「ここ高松は、美人が多いさかい、お見合いでもしたら?」
彼「ここも結婚式でえらい金のかかる土地で - - - - - - 」

そんなこんなで、彼の結婚しない理由を延々と聞かされましたね。
もしも私が年頃の女性なら、結婚対象欄外の男。

尚、高松は江戸時代から身請けされた近畿の美人芸子が移り住まわされていた土地ですね。
主に、彼女等は旅館のおかみさんでした。船場の二号さんですね。

翌朝は、曇り空にがっかり。営業所に顔を出してから適当に市内の食品会社数軒をやつぎ早に訪問。とにもかくにも出張報告書作成用の名刺をもらう。

それからは観光モードに切り替え。市内観光はヤバイので、
源平合戦の檜舞台・屋島の展望台へ。お天気が良ければ海が青くきれいなのですが何しろ今にも降りそうな雲行き。

きびすを返して国道11号線で徳島へ向かいました。
途中、寄り道をして岬の公園から鳴門海峡を垣間見。

徳島を素通りして阿南海岸へ。
天気が悪いですからちっとも観光気分にならない。

観光は諦めて、三時前に予約してある国民宿舎に入りました。

先ずは、一風呂!
びっくりしましたね。こんなに未だ日が高いのにもう先客が一人います。
湯船に浸かりながらその50歳ぐらいの男性に話しかけました。

「どちらから来はったのですか?」
「茨木(大阪府茨木市)からや」 
「茨木と言うと、ゴルフ場が確か二つあって。茨木カントリーと茨木国際」
「そこから来たんじゃ」
「ゴルフをしにですか」
「ゴルフの造成地を見にきたんじゃ。処で兄さんは何しに?」
「あはは! 出張ですよ。観光兼お仕事。天気が悪いさかい仕事も観光も取り止め」
「何の仕事をしているんかい?」
そこで私のしていることを話しました。

洗い場では背中を流してあげましたね。この時は世間話で終始。
男は、浴場から出しなに湯船の私に向かって言いました。
「風呂から上ったらわしとこの部屋に来なさい。部屋は○○室」

風呂から上ってから、指定された彼の部屋をコンコン。
彼は名刺を私に渡しました。
その名刺には「▲▲カントリー □□株式会社 代表取締役社長」

「今度の徳島のゴルフ場でのハウスを頼むよ。それに、今の茨木のゴルフ場でも改装に必要なものがそこそこあるから来週にでも来なさい」
「有難う御座います!」

翌日は、吉野川を遡りました。国道192号で徳島の奥・蔦監督の池田高校の近くまで行ったものの思い直して引き返し。穴吹から国道193号で讃岐の山越え。

再び高松市内から鳴門へ。淡路島を通ってフェリーで神戸港へ。
つまり、走ってガソリンを浪費しただけ。天気が悪いから景色絶望。

次週月曜日、早速出張報告書に上記ゴルフ場の社長の件を記入して提出。
その週の訪問予定先にそのゴルフ場を組み込みました。
無論、仕事をさぼって午後三時に風呂に入った時に出会った等とは書きません。

部長の指示「水無瀬君、君は茨木のゴルフ場に行く必要はないよ。予定から外しなさい」
そして部長は、その社長の名刺を京都営業所所長に渡したのです。

その名刺を持参した京都営業所の社員は、早速茨木のゴルフ場を訪問。
即決でロッカーやその他機器調度品合算で数百万円の受注をしたとの知らせを聞いたのは半月後でした。

それから三年後ぐらいですかね。例の徳島の新規オープンのゴルフ場で一千万円程の調度品や設備機器を徳島営業所が受注したのは。

男同士、裸の付き合いとは面白いものですね。

他方、社内の上司や同僚の嫉妬は激しいものでした。年齢を問わず。
それが延々と続くのです。