大雨の中、家財と共に一家移動


大雨の中、家財と共に一家移動

1948年(昭和23年)のこと。
私が3歳になる直前の3月末、父母はラジオから離れませんでした。と言いますのは、秋田県の公務員の移動がラジオで放送されるからです。

(訂正)当初、1949年(昭和24年)3月、4歳になる直前と書きましたが、次兄の指摘により、1年早かったので訂正しました。

父は由利郡長岡村(現、にかほ市象潟字長岡)から由利郡大内村瀧(現、由利本荘市瀧)へ移動となりました。確かこのラジオで放送されてから、三日ぐらいで新任地へ着任しなければなりませんでした。


我が家はバタバタの状態になりました。
そして、引っ越しの当日は朝から大雨でした。

家財道具を木炭トラックに積み込み、出発が午前11時の予定が、後任との引継ぎがうまくいかず、出発したのが二時間遅れの午後1時過ぎ。

(画像:当時の木炭トラック。ガソリンの代わりに木を燃やし、そこで発生する一酸化炭素を燃料として走る。)

私と母は、運転席に乗り、助手との計4人。父と姉と兄2人の4人は、トラックの分厚い防水シートで覆われている荷台の空いている隙間に乗りました。

雨は激しさを増し、崖崩れが起きたとかで遂に道路は通行止めとなりました。そこで海岸沿いの国道7号線に迂回しようとしたのですが、その迂回路も倒木や水没で通行不能なのです。

雨は間断なく降り続きます。それから何時間後でしょうか。迂回路が開通した時は、もう暗くなっていました。更に、目的地の滝への南から入る峠も崖崩れで通行不能の情報が入ってきました。このままではまともに進めない。

途中、雨が一旦止んだ時、私は助手席から降りて荷台を見上げると、防水シートの綿帆布(めんはんぷ)をかむり、濡れて寒さでわなわなと震える荷台の姉・兄たちでした。

本荘に着いたのが午後9時を遥かに回っていました。本荘で旅館に一泊しようと各旅館を回りますが、やはりこの日は足止めを食った人が多く、どこも満室です。

そこで父は、本荘から矢島方面(R108)にトラックを向かわせました。「濡れて震える子供たちを何とかしなければならない。」と。

電話が一般に普及していない時代。夜の11時頃でしょうか。西滝沢村吉沢の父の姉の嫁ぎ先の玄関を突然叩きました。

もう家の中から灯が無かった状態でしたので、既に寝てしまっていたのでした。伯父さんは確か役場に勤めていて、伯母さんは村の色々な役員をしていました。

そこの家族は夫婦に子供が4人。普通の家屋で、私達家族6人に運転手と助手の合わせて8人ですから、昔の事とは言え、まともに布団などあるはずはありません。それに荷台に乗っていた父と姉・兄たち4人は濡れています。

伯母さんは嫌な顔をしましたが、仕方が無いという素振りで何とか我等一行を泊めてくれました。

翌朝、私の記憶にあるのは、畳の部屋から見下ろす小川です。十数歳年上の従兄が優しく対応してくれたものです。

そこを朝出発し、滝に向かいました。北回りの遠回りと言えどもそこから道路距離は40km程ですから、幾ら何でも明るいうちに着けるはずなのです。

処が、本荘→岩谷経由大曲方面へのその遠回りの路(現、R105)でも冠水や崖崩れでなかなか前に進めません。

やがて陽が落ちて真っ暗な砂利道をヘッドライト頼りに木炭車は進みます。

道路左端の一本松をヘッドライトが照らした時、運転手が言いました。「あと少しだ!」

ようやく目的地の下まで着いた時には、雨は上がったものゝ、日はとっぷりと暮れていました。処が、トラックは雨でぬかるんだ僅か数十メートルの緩い坂をスリップして登れません。

(画像:2003.10.24撮影)

父は近くの村人に助けを求めました。程なく20人弱の村人が駆けつけてくれて、無論、街灯などは無く、真っ暗闇の中、提灯片手に坂の下から荷物を坂の上の住宅まで運んでくれました。

イメージ 1
(画像は、柳行李(やなぎこうり))

翌朝、母がポツリと言いました。「新しこうり(行李)、ネェ(無い)。あれにはエゝ(良い)着物だけ入れてたのに、仕方ねナ。」と。以降、母は行李(こうり)のことを一言も話したことはありませんでした。

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父のたった二通の遺稿の一つが、この転勤のことですから、大雨時のこの一連の木炭トラックでの移動は、父の人生にとって相当ショックな出来事だったのでしょう。

西滝沢村吉沢の伯母さんも、それから何十年も経つのに、会う都度、開口一番、「あの時は、本当に迷惑だった。」と笑って言うのですから、伯母さんにとっても、大変なことだったのです。

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(画像)
木炭トラック
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