『夏越の大祓詞』を読む


日本が、日本人が、世界の国々との大きな違いを為す根源に神社がある。

今から1200年前の平安時代(794年から約390年間)より以前から萬の神々を奉る神社の神事で朗詠されてきた詞(ことば)にその秘密がある。

日本が、日本人の心が、千数百年前から諭されてきた罪と穢(けがれ)を嫌う『清涼』の根源でもある。これは世界に類例のないほど、日本人の脳幹に脈々と刻まれてきた遺伝子である

6月30日は夏越の大祓(なごしのおおはらへ)。これを機会に、一度は宮司さまが読み上げる大祓詞(おおはらへのことば)に親しみ、延々と続いてきた神事の琴線に触れたいものである。


「私がどうしても滅びてほしくない一つの民族があります。それは日本人です。」(中略)そして、最後にこう付け加えた。「彼らは貧しい。しかし、高貴である」
元駐日フランス大使ポール・クローデル
昭和18年(1943年)秋、フランスのパリで晩餐会にて



大祓詞』 についての前文


「大祓(おおはらえ)」は遠く平安の昔から、毎年6月30日と12月31日の夕刻、宮中をはじめ、全国の神社でおこなわれるお祓いの行事である。

祓物(はらえつもの)を出して、祓戸の神の神威によって罪穢(つみけがれ)を解除(げじょ)する儀式であり、半年毎に恒例のものとしておこなわれるので「二季の祓」と称する。
 
大祓式で唱えられる祝詞が「大祓詞」(おおはらえのことば)。

送り仮名として使われている漢字は万葉仮名で、約900字の漢字で成り立っている。
「祓」の行事は神話にも語られておりもっと以前からおこなわれていたが大祓詞の成立は平安期以前といわれている

大きく二段に分かれていて、前段は豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)、つまり日本国の成り立ちが語られ、後段では「祓」をおこなうと罪穢がどのように消滅するかが語られている
 
日本人は「清浄」を尊ぶ民族である。人間はこの世に神から命を授かり、神の子として生まれてくる。神の心は「清らか」だが、この世に生を受け、現世の世俗の生活の中で知らず知らずのうちにいろいろな罪穢に触れゆく。

悪事を働くことだけが罪穢(つみけがれ)ではない。嘘をついたり、人を憎んだり、怒り、嫉みなども罪穢となる。罪穢が体に溜まってくると、これは良いはずがない。
身体の中の氣力とか元氣の元である「氣」が衰えてくる。「氣」は、まさに生命のエネルギーそのもの。
【「氣」が枯れる】これが「穢(けがれ)」の語源である
それを祓い清めることによって、枯れた「氣」をよみがえらせる。

そうして清らかな氣持ちで、活力あふれる生活を再開する。
それが「大祓」の意義である。



下記は、ユーチューブで宮司さまが読み上げる大祓詞(おおはらへのことば)の文章を、順次、目で追っていけるように書き直しました。

(注)声だけですので映像は出てきません。


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高天原(たかまのはら)に神留(かむづま)り坐(ま)す 皇親神漏岐(すめらがむつかむろぎ) 神漏美(かむろぎ)の命(みこと)以(もち)て 八百萬神等(やほよろづのかみたち)を神集(かむつど)へに集(つど)へ賜ひ 神議(かむはか)りに議(はか)り賜ひて 我(あ)が皇御孫命(すめみまのみこと)は 豊葦原(とよあしはら)の瑞穂國(みづほのくに)を 安國(やすくに)と平らけく 知ろし食(め)せと 事依(ことよ)さし奉りき 此(か)く依(よ)さし奉りし國中(くぬち)に 荒振る神等(かみたち)をば 神(かむ)問はしに問はし賜ひ 神(かむ)掃(はら)ひに掃ひ賜ひて 語(こと)問ひし 磐根(いはね) 樹根立(きねたち) 草の片葉(かきは)をも語(こと)止めて 天(あま)の磐座(いわくら)放ち 天(あま)の八重雲を 伊頭(いつ)の千別(ちわ)きに千別(ちわ)きて 天(あま)降(くだ)し依(よ)さし奉(まつ)りき 此(か)く依さし奉りし四方の國中と 大倭(おほやまと)日高見國(ひだかみのくに)を安國(やすくに)と定め奉りて 下(した)つ磐根(いはね)に宮柱太敷き立て 高天原(たかまのはら)に千木高(ちぎたか)知りて 皇御孫命(すめみまのみこと)の瑞(みず)の御殿(みあらか)仕へ奉りて 天の御蔭(みかげ) 日の御蔭と隠り坐(ま)して 安國(やすくに)と平けく知ろし食(め)さむ 國中(くぬち)に成り出でむ天の益人(ますひと)等が 過ち犯しけむ種種(くさぐさ)の罪事は 天つ罪 國つ罪 許許(ここ)太久(だく)の罪出(い)でむ 此(か)く出(い)でば 天つ宮事以ちて 天つ金木(かなぎ)を本(もと)打ち切り 末(すゑ)打ち断ちて 千座(ちくら)の置座(おきくら)に置き足(た)らはして 天つ菅麻(すがそ)を 本(もと)刈り断ち 末刈り切りて 八針(やはり)に取り辟(さ)きて 天つ祝詞(のりと)の太祝詞(ふとのりとごと)を宣(の)れ 

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此(か)く宣(の)らば 天つ神は天の磐門(いはと)を押し披(ひら)きて 天の八重雲を伊頭(いつ)の千別(ちわ)きに千別(ちわ)きて 聞こし食(め)さむ 國(くに)つ神は高山の末(すゑ) 短山(ひきやま)の末(すゑ)に上(のぼ)り坐(ま)して 高山の伊褒理(いぼり) 短山(ひきやま)の伊褒理(いぼり)を掻(か)き別(わ)けて聞こし食(め)さむ 此(か)く聞こし食(め)してば 罪と言ふ罪は在(あ)らじと 科戸(しなど)の風の天(あめ)の八重雲を吹き放つ事の如く 朝(あした)の御霧(みぎり) 夕の御霧(みぎり)を 朝風 夕風の吹き払ふ事の如く 大津辺(おほつべ)に居る大船を 舳(へ)解(と)き放ち 艫(とも)解(と)き放ちて 大海原(おほうなばら)に押し放つ事の如く 彼方(をちかた)の繁木(しげき)が本(もと)を 焼鎌(やきがま)の敏鎌(とがま)以(も)ちて 打ち掃(はら)ふ事の如く 遺(のこ)る罪は在(あ)らじと 祓(はら)へ給ひ清め給ふ事を 高山の末(すゑ) 短山(ひきやま)の末より 佐久那太理(さくなだり)に落ち多岐(たぎ)つ 速川(はやかわ)の瀬に坐(ま)す瀬織津(せおりつ)比賣(ひめ)と言ふ神 大海原に持ち出でなむ 此(か)く持ち出(い)で往(い)なば 荒潮(あらしほ)の潮(しほ)の八百道(やほぢ)の八潮道(やしほぢ)の潮の八百會(やほあひ)に坐(ま)す速開都(はやあきつ)比賣(ひめ)と言ふ神 持ち加加(かか)呑(の)みてむ 此(か)く加加(かか)呑みてば 気吹戸(いぶきど)に坐(ま)す気吹戸(いぶきど)主と言ふ神 根國(ねのくに)底國(そこのくに)に気吹(いぶ)き放ちてむ 此(か)く気吹(いぶ)き放ちてば 根國(ねのくに)底國(そこのくに)に坐(ま)す 速佐須良比賣(はやさすらひめ)と言ふ神 持ち佐須良(さすら)ひ失ひてむ 此(か)く佐須良(さすら)ひ失ひてば 罪と言ふ罪は在(あ)らじと 祓へ給ひ清め給ふ事を 天(あま)つ神 國(くに)つ神 八百(やほ)萬神等(よろづのかみたち)共に 聞こし食(め)せと白(もう)す

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※ 長崎県神社庁大祓詞(おおばらへことば)全文は、縦書きで漢字の右横にかなを振っているので、覚えるならこちらの方がよい。

※ 字幕付きのユーチューブ
初音ミク大祓詞 11分31秒
大祓詞 5分58秒


大祓詞』解読


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高天原(たかまのはら ※天上の神々の国)にいらっしゃる皇祖神(すめみおやのかみ ※親神様)の御命令によって、八百万(数多く)の神々が一堂に集まり、幾度も議論が重ねられた。

こうした神々による会議・相談の結果、皇御孫命(すめみまのみこと=瓊々岐命 ににぎのみこと)は豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに=日本国)を平和で穏やかな国として統治しなさい、とお任せになった。

しかし、豊葦原瑞穂国には、素直に従う神もいれば、ご威光に従わず荒れ狂い暴れ回り、恭順を示さない神々もいた。

そこで、瓊々岐命(ににぎのみこと)はそうした神々に『なぜ従わないのか』ということを幾度も問われたあと、それでも反抗して従わなかった神々を徹底して討伐し、追い払われた。

こうして、荒ぶる神々だけでなく、言葉をしゃべっていた岩や樹、一片の草にいたるまで、その言葉をやめて静かになったように国土が平穏になったので、瓊々岐命(ににぎのみこと)はその玉座を発たれ、幾重にも重なってたなびく雲を激しく千切るようにかき分け押し分け、高天原から地上に降臨された。

瓊々岐命(ににぎのみこと)はこのように統治を命じられた国において、「倭(大和)の国」を都と定められ、統治の中心地とされた。

そこで、倭の国の中心にあたる場所に、地中深く穴を掘り、そこに宮殿の太く立派な柱をどっしりと差し立てられた。また、屋根の上にはあたかも高天原に届くかのように千木を大空高くそびえ立て、荘厳で立派な宮殿をお造りになり、天照大御神の御加護を受けて、宮殿にお入りになった。

さて、平安に治めるこの国(日本国)の、極めて優秀な国民たちが、過って犯すであろうさまざまな罪穢、天つ罪・国つ罪など、沢山の罪穢が現れるであろう。

このように多くの罪穢が出るならば、高天原(たかまがはら)の天照大御神が行われる天津神(あまつかみ)の神秘な儀式にならい、それと同じやり方で、神事に使う祓物(はらいもの)・撫物(なでもの)として、数多くの堅い木の根本と先端を切り取って適度な大きさ長さに切りそろえて、机の上に置き、また、清らかな麻の根本と先端のところを切りそろえて適度な長さにして、今度はそれを八つ裂きに切り裂き散らして(祓の神事をおこない)、天津神が授けたきわめて効力の高い、神聖で完全な祓の祝詞を唱えなさい。

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このように祓の祝詞を唱(とな)えたならば、天津神(あまつかみ、天上の神)は高天原(たかまがはら)の宮殿の磐門(御門)をお開きになり、天にかかる幾重にも重なり合った雲を御威勢で押し分けかき分けて、その詞をお聞きくださるでしょう。

国津神(くにつかみ、地上の神)は高い山や低い山の頂上にお上がりになって、たちのぼる雲や霧や霞をかき払ってお聞きくださるでしょう。

このように天津神国津神がお聞き届けくださるならば、罪と名が付くものは一切残らず全て消え失せるだろう。

それはまさに、あたかも強い風が幾重にも重なり合った雲を吹き飛ばす如く、朝夕の風が朝夕に立ちこめる霧を吹き払うように、大きな港につながれている大船の舳先(へさき・船の先端)や艫(とも・船尾)の綱が解き放たれて大海原に押し放たれるように、見渡す限りの繁茂した木々を、焼いて鍛えた鋭い鎌でことごとく薙ぎ払ってしまうように、あらゆる罪を一切残らず消え去るようにと祓い清められた。

こうして祓い清められた全ての罪は、高い山・低い山の頂から勢いよく流れ落ちて渓流となっている急流にいらっしゃる瀬織津比売(せおりつひめ)と呼ばれる女神が大海原に持ち去ってくださるだろう。

このように瀬織津比売(せおりつひめ)によって持ち出された罪を、今度は人が近づけないほどの大海原の沖の多くの潮流が渦巻くあたりにいらっしゃる速開津比売(はやあきつひめ)という勇ましい女神が、その罪をガブガブと呑み込んでしまわれることだろう。

このように速開津比売(はやあきつひめ)によって呑み込まれた罪は、今度は海底にあって根の国・底の国へ通じる門(気吹戸)を司る気吹戸主(いぶきどぬし)といわれる神が根の国・底の国(黄泉の国)に気吹によってフゥーっと息吹いて地底の国に吹き払ってくださるだろう。

このように気吹戸主(いぶきどぬし)によって吹き払われた罪は、今度は根の国・底の国にいらっしゃるパワー溢れる速佐須良比売(はやさすらひめ)という女神がことごとく受け取ってくださり、どことも知れない場所へ持ち去って封じてくださるだろう。
このように、あらゆる罪穢をすっかり消滅させて浄化してくださるならば、この世界に罪という罪は一切ありません。

このようにいたしますので、私どもが『祓え給え清め給え』と申し上げる(祓の神事をおこなう)ことを、よくよくお聞き届けくださり、どうかお力をお授けくださいますようにと、慎んで申し上げます。
 
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貴船神社掲載
参考資料  『神道行法の本』株式会社学習研究社



(参考)


伊勢神宮の夏越の大祓
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神田明神の夏越の大祓
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新潟県長岡市 宝徳山稲荷大社の夏越の大祓
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(前科、前々回の私の記事)

-  京都・貴船神社の「夏越しの大祓」