低線量被爆のリスクとがん


昨日の記事の中の宿題を今回掲載する。

(昨日の記事)
『将来瀬戸内海沿岸都市では乳癌多発』 2016.09.06
※尚、この記事では書き忘れたが、瀬戸内海沿岸に限らず、東京湾沿岸も危険極まりないエリアとなる可能性がある。

   ☆   ☆   ☆

日本の疫学調査が低線量被ばくの影響を証明

スターングラス博士に低線量被ばくの影響を確信させた証拠を提供したのは、がんの疫学調査の先駆的研究者として世界的に知られていた瀬木博士でした。それをもとにスターングラス博士は核実験の時期とがん死亡率の上昇時期とを比較しています。

さらに、最近日本から届いたばかりのデータがあります。日本の瀬木博士のデータによると、がん死亡率は1970-71年頃から始まって、日本中で方向転換を始め、突然上昇が止まり、前立腺がんや白血病、その他の潜伏期間が短いがんは下がっています。

 ある臓器がんの場合、いかに劇的な上昇率であるかお見せしましょう。膵臓がんですが、これは医学で治療が難しいがんです(図6)。ご覧のように、1930年から1945年の間、化学物質による公害が最悪状態の期間ですが、全く上昇していません。その後2,3年で1,200%も急増しています。

図6 膵臓がん死亡率(日本男性)

図6 膵臓がん死亡率(日本男性)
縦軸左:死亡率/100,000人)  縦軸右:相対死亡率(1937年〜43年=100)
横軸:年(1940年〜1970年)
上昇線左側の事件(下から順に):第1回原子爆弾、第1回ソ連原爆実験、第1回ソ連水爆実験、第1回シリーズの最後、モラトリアム
上昇線右側の事件(下から順に):米ソ第2回素麦実験シリーズ[開始]、第1回中国原爆実験

 私たちが今まで非常に低い線量レベルの影響を過小評価していた可能性があると、この統計が示しているわけではないと言う人は、公衆衛生を無視しているということです。

ここで指摘しておきたいのは、みなさんにはっきりと理解されていないと思える点です。現時点では確かに、診断用X線が人口全体に対する被ばく量の最大の線源でした。

しかし、非常に低い線量の影響が思っていたより大きいという証拠が出てきた今、過去の医療用X線被ばくの研究では対応できない状況にあると思います。

医療用X線は非常に高い線量率で行われるので、使用される線量では体への影響は小さいと考えられてきたわけです。

この間違いがどうして起こったかをはっきりと示すグラフをお見せしたいと思います(図7省略)。3,4年前までこのような実験情報がなかったために、間違った理解をしていたのです。(中略)

スコットや他の研究者たちは極端に低い線量で何が起こるか検証を始めました。この低線量の影響についての医学的データは全くありませんでした。

この新たなデータをもとに考えられることは、この低線量で中心的な影響は細胞膜損傷です。(中略)

私が1971年に本を執筆していた頃、バックグラウンド線量の影響を推定するベストな選択は直線型だと信じ切っていました。

しかし、今、細胞膜損傷という新発見を前にして、そして、免疫過程と細胞膜との関係を考慮すると、生物学的損傷の最大の原因は医療被ばくだろうかと疑問に思わざるをえません。(中略)医療被ばくは高線量ですから、もっと研究が必要です。

 日本では1920年から1950年までがんの死亡率があがっていません。瀬木博士のデータが示すように、この期間、医療用X線が使われるようになっていました。つまり、医療用X線は線量が高いにもかかわらず、がんの原因としては幸いなことに最大のものではないことを示しています。(以上で抜粋終り)

私見
がんの原因は核実験説であると唱えているが、『低線量で中心的な影響は細胞膜損傷』とすると、細胞膜損傷からがん細胞へと変化するリードタイム、そしてがん細胞から死までのリードタイムがあるはずである。それを勘案したら、上記の結論を出すのは拙速ではなかろうかと思うが、上の記事中、図7が省略されている。この図7を見つけ次第、この私見を書き直すかもしれない。



上記の記事作成中に、下記の研究論文に遭遇。
低線量被爆に関してマウスを使った実験結果である。

MITニュース
A new look at prolonged radiation exposure
MIT study suggests that at low dose-rate, radiation poses little risk to DNA.

長期の放射線被ばくで新しい外観
MITの研究では、低線量率で放射線がDNAに少しリスクをもたらすことを示唆。

Anne Trafton, MIT News Office  May 15, 2012
アントラフトン、MITニュースオフィス 2012年15月

(論文原本)

(要約)
BevinのEngelwardとジャックリーンYanchが主導した研究論文がジャーナル環境健康展望に発表されたが、マウスは5週間の通常レベルよりも約400倍高い放射線量にさらされたとき、何のDNA損傷が検出できなかったことが分かった。
現在の米国の規制では、通常よりも8倍高い放射線レベルに到達した任意の領域の住民が避難しなければならないことを要求する。しかし、このような移転の財政的、感情的なコストは価値がないかもしれない、と研究者は言う。

   ☆   ☆  ☆

上記論文に対して、下記は日本の研究者の色々な見解がコメント(約180)欄で述べられているサイト。これらのコメントを読むと、上記研究論文の理解が深まる。

MITのマウス低線量被曝実験への反響
マサチューセツ工科大学ニュースで報告されていたマウスの低線量被曝実験についての反響を、研究者(さまざまな分野)、翻訳者のつぶやき中心にまとめてみました。
(中略)

(コメント欄より一つ抜粋)
Tatsumi Soichi @Soichi_Tatsumi 2012-05-23 10:29:58
もちろん,穿った見方をするならば少なくとも短期的にはアメリカ自身も原子力の推進が頓挫するのは困るはずで,原子力に対してポジティブな研究結果が欲しい,という事情は確実にある.その文脈にのって研究がなされ,プレスリリースである意味福島はダシに使われた,という面はあるのかもしれない.

   ☆

私見
この研究論文は、一つのデータとしての価値はあるがそれ以上の価値はない。この程度の研究で、「現在の米国の規制では、通常よりも8倍高い放射線レベルに到達した任意の領域の住民を避難させるのは価値が無い」との結論を打ち出せるとは驚きである。

この研究ではマウスの年齢別低線量照射(被爆)実験も行っているが、それだけでは実験不足である。

マウスに低線量を照射しても大したDNAの変化が見られなかったならば、それでは人間の場合、何故に低線量で例えば乳がんが多発するかの追及をするのが研究者として当然ではなかろうか。


例えば、低線量のはずの原発施設や原子力研究所の周辺で、何故に乳がんが多発しているのかを追及すべきである。

(参考)人間の場合、少ない線量の照射により、2~4週間目に、骨髄で血液、特に免疫をつかさどる白血球ができなくなった結果、『骨髄死』と称し、感染症などで死亡する。

実験マウスでは低線量の影響をほとんど受けないと言うが、何故に人間が受けるのか。マウスと人間では、根本的に何が違うのか。

例えば、マウスに人間の食べ物を与えたらどうであろうか。

①正常な穀物の場合 ②遺伝子組み換えの穀物の場合の二つの場合に対して、③牛乳や乳製品 ④肉類 ⑤砂糖類 ⑥人工甘味料 ⑦低濃度フッ素水 ⑧低濃度放射能水 の組み合わせである。

私は全くの素人ではあるが、マウスに低線量を照射(被爆)しながらのこの餌の実験で、マウスのDNAに劇的な変化が起きると推定するが。

もしもこの餌の実験で、マウスのDNAに何ら変化が起きなかった場合、それでは原発施設周辺での乳がん多発は何故かを現地に入り、疫学的調査までするのが研究者の姿勢ではなかろうか。