喜劇とは悲劇な者がいてこそ成り立つ

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関西のお笑い芸人は、いじめ役といじめられ役がいて成り立っていますね。
実は、子供社会からこうですから、関西でのいじめは無くならないはず。
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さて、昭和52年(1977)の東京支店。
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珍品な白いなまこの頭に黒のマジックで輪を描き、テラスから小雨を降らした社員旅行。
高山課長企画、土日の一泊二日の熱海温泉社員旅行は終わりました。

私の履歴書・147

翌日(月曜日)の朝、高山課長は顔を見合わせる都度何かを言いたげです。
そのような彼の素振りが週末まで続きました。

金曜日、彼は意を決して恐る恐る話しかけてきました。

「熱海の旅館で、二階から小便をした者がいる。誰だか知らないか?」
「あの夜は、皆、酔っていたからな」

「和田君は?」
「知らないと言うんだ」

「何かあったのか?」
「翌朝に、しっかりと叱られたよ!」

「誰に?」
「旅館の女将からだよ」

「どうして?」
「一階の部屋のお客さんが女将に怒鳴り込んだ。小便が降って来るって」

「ふぅ~ん、そんな事があったのか。誰だい? それは?」
「それが誰か分からないのだよ」

更にかれは言い難そうに、しかもこそこそと。

「あの日、マジックを持っていた者を知らんか?」
「マジックって? 何で旅行にマジックが要るの?」

暫し沈黙。うつろな目。

「ワシのあそこにマジックでいたずら書きをした者がいるのだ」
「何なの? それ? 何処に?」

「ワシのチンの先にだよ」
「誰かがマジックで? あんたのに!アハハ! そりゃ、傑作!」

「朝風呂でパンツを脱いだら先が真っ黒!」
「アハハ! そりゃ、驚くよ! それで、どうした?」

「前をしっかりとタオルで隠して入ったよ」
「マジックは洗い落ちたのかい?」

「石鹸をいっぱい付けたタオルで何度もこすったよ」
「そんじゃ、ムクムク大きくなったろうに!」

「馬鹿な事を言いなさんな!」
「マジックは、とれたのか?」

「直ぐにとれんわ!」
「奥さんに見せたのか?」
「見せる訳ないやろ。こすりすぎて皮がむけたよ」

「じゃ、赤チン塗らなきゃ!」
「あのなぁ~、水無瀬君よ!」


「あの日はねェ、僕と清水君は宴会場から直接ラウンジに行ったよ。そしてそこの応接セットで眠ってしまったからなぁ。飲みすぎたからなぁ」
「じゃ、部屋に先に入ったのは誰だろう?」

「和田君に起されて皆で部屋に入ると、あんたが大の字で寝ていたよ」
「それから、テラスに出たのか?」
「その辺は、はっきり記憶に無いな。でも、皆で夜空を見上げた時には、あんたもいたような気がするよ」


その時、丁度和田君が近くを通りました。
「和田君!和田君! ちょと来て!」

高山課長に見えないようにして左目でウインク。

「熱海の旅館の深夜の二階テラスでは、高山課長も居たよね」
「おぉ~、課長もいたよ」

「そこから、誰かがテラスからオシッコをしたと言うんだよ」
「課長が、浴衣の前を広げていたよ」
「そうだ。我等は直ぐに部屋に引っ込んだからその後は分からないよ」

高山課長の肩幅は、益々か狭くなり、ダボハゼの目の色が灰色に。
月曜日から金曜日までの五日間、誰かを捕まえてそれとなく熱海の夜の事を聞いたのでしょうね。

何せ、この旅行には五十数人が参加していましたからね。
和田君に松ちゃんに清水君に私の四人が口裏を合わせたなら、解明の仕様がない。

誰に聞いても、埒があかない。
ひょっとしてテラスからオシッコをしたのは自分かもしれない。そう思ったかも。

それからの一ヶ月間の彼は、ダボハゼの目の色を灰色にしたまま、浮かない顔でしたね。

                社員旅行の件はこれでおしまい