香港の夜、高層アパートに連れ込まれて

1977年(S52)の香港の夜。

遠くの街の灯りが見えなくなり、真っ暗な夜道をタクシーは走る。
何処に向かっているのか? 山の中か?

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隣の座席の上であぐらをかく女性。
運転手と何の話をしているのか?
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頭をよぎるのは香港マフィア。
我等三人があの店に行ったことなど、誰も知らない。
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今ここで殺されたら、山の中に埋められて私の死骸は発見されないだろう。

私の履歴書・140

やがてうす暗いながらも光が見えるところへ。
ほっとすると同時に、これからどんな事が待ち受けているのか?

イメージ 3.
車は、ある建物の正面で停まりました。
タクシー代千円。拠って残金五千円。
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どんな建物か暗くて分かりません。
女性の後に従って中に入りました。
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高い天井には裸電球。
薄暗い中をエレベーターへ。
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降りてきたのは手動式エレベーター。
格子戸に折れ戸式柵。
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女性が扉を横にスライドして中に入りました。
寸法は百貨店にあるエレベーター程。十人は楽に乗れます。

エレベーターはどんどん上昇していきます。
降りたのは17階程(11階?)でしょうね。
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エレベーターの扉を開けると、幅三間程の通路の両側にずらりと部屋のドア。
通路の奥行きは30mはあったと思います。

女性は、二十歩程進んでから左のドアを開けました。
どんな男が待ち受けているか? もう、ここまできたら逃げるのは不可能。

ドアを入ると、右側にベッド。1DKのようでした。
女性はベッドに座るなり「マネー!マネー!」と連呼。

「Why?  I paid already thirty thousand yen!」(何故?私は既に三万円払っている!)
「No! No! 」

お互いの片言の英語では話が見えないので、筆談を交えました。
私が払った三万円は、ママの手数料で女性には支払われないとの事。

故に、この場所で私が改めて支払うお金が女性の取り分。
その額は、五千円と言う。

どういう訳かそれは私の全財産の額。
右の靴下の中には五千円札が一枚だけ。

これを払ってしまったら、一文無しとなる。
それに、ひょっとしてこの五千円だけで済むとは限らない。

お互い、大声で、払え!払わない!の言い合い。
「That's not ours agreement!」(約束が違う!)「I go back!」(私は帰る!)

そう怒鳴ってからドアを開けて通路に出ました。
背後では女性がわめき叫んでいます。

歩き始めますと、何処からともなく人が集まって来ました。
あっと言う間に囲まれ更に二重の人垣。40人前後はいたでしょうか。

とうとう香港マフィアに囲まれた!これで一巻の終りか!と思いましたね。
走って階段を降りたとしても途中息切れして捕まるだろうし。何しろここは17階。

イメージ 2.
不思議に一瞬冷静になれました。
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背が皆私より小さかったからですかね?
それと半袖の下着姿の人もいましたからね。
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こうなったら、ヤケのヤンパチ。
握手をしたなら少しはリンチの手加減をしてくれるかも。
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笑顔で「ニーハオ! ニーハオ!」
そう言いながら、片っ端から握手! 握手! 握手! 握手!

藁にもすがる思い。僅か2~3分でほぼ全員と握手。
終わった時に、これで生きて帰れるかも!と思いましたね。

あっけにとられて人垣の中にいた件の女性は、私の腕をとりエレベーターへ。
輪の中にいた数名の男性も同乗してきましたから、新たなピンチ。

このエレベーターの中の時間は長かったですね。
当時の香港の人達は、皆痩せていて目がぎょろぎょろしていましたからね。

途中の階で止まって人が乗り込んでくる都度、皆、香港マフィアに見える。
降りる人がいれば、ほっとしましたね。