32年前の香港の夜の女性達

今、発見。昔の写真の数十枚のうちに一枚だけに日付が書かれていました。
昭和52年(1977)4月11日~14日。この年、洋ちゃん33歳主任。私32歳。洋ちゃんの部下31歳。

どうしても年上の奥方(国家公務員管理職)の日頃の束縛からの開放感を味わいたい洋ちゃん。

「何も訳の分からない香港まで来て行く必要が無いでしょう!! 今度銀座のクラブに連れていってあげるよ」と言いましたが馬耳東風。

私の履歴書・139
イメージ 1.
蜂の巣のように幾百も軒を連ねる夜の香港の屋台の群れ。
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洋ちゃんがタクシーを拾いました。言葉は通じません。
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身振り素振りに片言の横文字。
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何とか雰囲気で通じて場末の小さなネオンの点いている店の前で下車。
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流石、洋ちゃん、真っ先にドアを開け一歩踏み込みました。
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その後から私も一歩入ったとたん「こりゃ、やばい!」と直感。

「洋ちゃん、ここ、まずいよ。他の店にしよう」
「他ってじゃぁ何処に行く? ここしかないだろう」

「でも、この雰囲気、何となく変」
「じゃぁ、軽く一杯してから出よう。ねッ!ねッ!水無瀬さん」

カウンターには二人の白人が座っていましたから我等もそこに。
座りかけましたら、手振りでそこは駄目との事。ボックスに案内されました。

中国人らしい二人の女性がテーブルの向かい側に座りました。
我等の要望は「メニュー、メニュー」  でも通じません。

イメージ 2.「ウイスキー、ハウマッチ?」
片言の英語でようやく通じたようです。
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但し、値段不明、支払いは後からというのです。
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「洋ちゃん、後からの支払い??? ぼったくられるよ」.
そこで洋ちゃんは、コップを持つ素振りで「ハウマッチ!」と連呼しました。
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その時、コップを持つ素振りの右手の小指が立ってものですから大笑い。
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ウイスキー、ハウマッチ?」と言っていた言葉が単に「ハウマッチ?」だけになりました。それも小指を立てて。
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「ハウマッチ?」と女性も小指のみを立てて聞いてきました。
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「イエス!イエス! ハウマッチ?」 我等三人は大笑い。

「Do you understand Japanese?」
「Japanese? NO。ママ、OK! But little! little!」
一人の女性が席を外して、やがてママらしき女性を連れてきました。

「洋ちゃん、何か、変な事になりそうだよ」
「いいじゃないか! 旅の恥は掻き捨て。いい思い出を作ろうよ!」

洋ちゃんとママの片言の日本語では会話が上手く成り立ちません。
「ペーパー&ペン」で洋ちゃんとママは筆談を交えながらです。

ママとの筆談を終えた洋ちゃん「一人三万だって!安いだろう!」
「洋ちゃん、三万って日本円に換算すると600円だよ。そんな訳ないだろう?」

洋ちゃんは、再度ママと筆談。

香港ドルではなく、日本円で三万だって! 行こうよ!行こうよ!」
「洋ちゃん、君も知っているようにボクの全財産は三万六千円だよ。ここで三万も払ったら後はどうなる? 土産は何も買っていないのだよ」
「君(洋ちゃんの部下)はどうする?」
「洋さんと一緒に行きます」

「じゃ、ボクは一人でホテルに帰るのか」
「水無瀬さん、そんな一人で帰るなんて寂しいこと言わないでよ。土産が無いことは奥さんに私が弁解してあげるからさ!行こう!行こう!」

しつこく迫る洋ちゃん。一人でホテルに帰ったら明日から村八分にされる恐れ。
やむを得なく、靴底に入れていたなけなしの三万円を洋ちゃんに渡しました。
残金は、右足の靴下の中の六千円のみ。

どうやら洋ちゃんとママの交渉は成立したようです。
これから三人でタクシーに乗り別の場所に移動との事。

イメージ 3薄暗い外に出ますとタクシーが三台。何故????
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一人ずつ乗りましたら、先程傍にいた女性の内の一人が乗ってきました。
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各々女性を乗せたタクシーは、走り出しました。
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それぞれ全く別の方角に。何故????
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彼らの乗った二台のタクシーは街角に消える。

私の乗車したタクシーは、間も無く砂利道に入りました。
窓からの街の灯りは見えなくなる! 

まるで猪が出てくるような真っ暗な野原の中を走ります。

                               つづく