「君子危うきに近寄らず」でしたよ



《アルバイト家電店長奮闘記 ⑨化け猫幽霊屋敷で潜伏》

私「ありゃ、誰だ?」
彼「東西商事(仮称)の社長だよ」
私「なんじゃそれ、東西商事って?」

彼「あの組織(ヤが付く組織)の商事部門だよ」
私「それが何で何度も来はるの?」
彼「おまはんを引き抜こうとしてはる」
私「なんでじゃ?」
彼「おまはんの仕事、えろう感心しはってな。給料倍出すとゆうてまっせ」
私「あかん!あかん! うちは落ちぶれても、そんなとこ、行かしません」

数日後

彼「給料、三倍にするとゆうてまっせ」
私「あんさん、いい加減にしや! うちは関係あらひん」
彼「債権の取立ての仕事で、おまはんがなだめ役。我が脅し役。我の給料は今の倍。おまはんは三倍だから、えやないか」

こんな調子でした。

給料が良いからと言って、一度その道に入ってしまうと抜けれません。
抜けるとなると、小指とおさらばですからね。




彼の誘いは、毎日でした。
それに新たに変なのが店の前をうろうろし出しました。

こりゃ、やばいぞ!

早速事務員に「これから当分、身を隠す。社長に言っておいてくれ」と言って翌日から出社しませんでした。



そして、化け猫屋幽霊屋敷の二階でじっと息を潜めていましたね。
ここは誰でも表の格子戸を開けて立派な通り庭から奥に入ったら、驚愕しますからね。

以前にも言いましたように、一階には何しろ猫が50匹程。雨戸は無いし、障子の紙は無くなってから十年以上は経っていたでしょう。当に、神社の舞殿か能舞台

それに、家主は長い髪が背中まで。然もぼさぼさの小母さん。
やせこけた顔に細い身体。白っぽい長襦袢姿。時々猫相手にキーキー甲高い声。
庭はペンペン草だらけ。

まさか、ここに人が間借りして住んでいるとは思わなかったでしょうね。
それでも私を訪ねて変なのが来たそうで、小母さんは「知りまへん」と応えたそうです。

日中、表通りを垣間見まして、遠くでも立ち止まっている人を見ましたらビクビク。
だから、外出は夜になってからでした。

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