生死をかけての風邪薬


《今度こそ!が御茶ノ水駅前で転倒》

一期校の試験終了の翌日から二十日間の記憶は定かではない。
熱は、依然として39度から下がらず。

試験が終わったからと言って布団や下着が乾くものではない。
それに毎夜の寝汗。


いよいよ三月下旬。二期校の試験日は近づく。
下着を買う。そして二日前に東京へ。

東京のお天気はポカポカ。
阿佐ヶ谷駅近くの薬局へ。


「一発で治る風邪薬を下さい」
薬局のご主人が私の切なるお願いで差し出したもの。

それは当時新興製薬会社のエスエス製薬の風邪薬。
この年、この薬で二人以上が亡くなったはずのもの。


そこから歩いて由利学生寮へ。宿泊を頼んでいた友人は、帰郷で留守。
でも連絡をしておいてくれたので彼の部屋へ。


留守の彼に迷惑をかけてはならず。
ダンボールと新聞紙を敷布団の上に敷く。
掛け布団は、先ず新聞紙。その上に掛け布団。


生きるか死ぬかのエスエス製薬。通常の三倍飲む。
流石、夜に激しい発汗。新聞紙とダンボールを三度取り替え。


残る下着一式は交換する事が出来ず。
交換してしまったら、本番の時の下着が無くなる。


そうして二晩。


いよいよ本番。本日好天なり。
下着は新品。体温36度。

下車はJRお茶の水駅。
ホームの階段を早足で上り、御茶ノ水橋口改札を出ると快晴。


「わぁ~! いい天気! 脳も体調も絶良好!」
「流石、生きるか死ぬかのエスエス製薬!!」


と、青い空を見上げながら身を乗り出し交差点に右足を一歩踏み出す。
とたん、白い雲が遠くなり、足が宙に浮く。


                                  続く