英子さんとはこうした別れでした

私の履歴書・27
〈突然の別れ〉
六年生の三学期が終わった昭和33年(1958)弥生三月末の春休み、本荘に転校する事になった。
突然の事である。

二日後にいよいよ下川大内村と離れる日に、友達の健君が「送別会をやるから来て」と言う。
暗くなってから、定刻前に彼の家の二階に上がった。
                                             
間も無く、同級生が二人入って来た。
英子さんとその友達の和子さんである。
私は、英子さんに、好意を寄せていたので、健君が気を利かして呼んだのだ。

健君の母親が、二階に上がって来た。
持って来たものは、一升瓶二本。
それから、男は健君と私、女性は、英子さんと和子さんの計四人で送別会が始まった。

英子さんは結構酒が強い。
「飲め!飲め!明日から会えないぞ!」と言って、英子さんに健君は、さかんに日本酒を注ぐ。
無論、冷のコップ酒である。

英子さんの頬はやがて赤くなり、ますます可愛い。
身のこなしがどんどん柔らかくなる。

私も、ぐいぐい飲む。
英子さんにより密着したいし、恥ずかしやらで。

この時、矛盾という言葉を、知らなかった。
もじもじ、そわそわ。

酔ってしまったのか、其れとも赤く色付いた英子さんに見とれてか、この時、何の話をしたのか全く記憶がない。
唯、英子さんの目に、涙が浮かんでいた事は覚えている。



夜もふけて、「このままの帰宅では、顔が赤いから拙い。
酒を醒まそう」という事となり、帰り支度をし、四人でガラガラと戸を開けて外に出た。


田舎の事、街灯は無い。
四人で真っ暗な道の真ん中を並んで歩く。

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ふと見上げると、星の輝き。皆、空を見上げた。☆☆☆☆☆☆!!

「あ~、あの星座は!」と誰かが。
「この星座は!」とまた誰かが指差す。
「あっ!流れ星!」
「どこどこ?」

そして、暫く無言。
仰ぎ見る満天の星の数々。
静かに無言の時が流れた。




誰かが、そっと歌い出した。
連れて、皆、一緒に歌い出した。
星空に向かって。

小学校で習った、かの歌が終わったらこの歌も。
そして次にはその歌も。あの歌も。






(かあさんのうた)https://www.youtube.com/watch?v=mUFcgZdNLU8





やがて、歌は自然とか細くなり、そして暗闇に消え入った。
誰かが何かを言わなければならない事は、皆、分かっていた。


どの位の沈黙が経ってからだろうか。
健が言った。「手をつなごう」


手をつなぎあい、輪になった。手探りで。


暗闇の中、お互いがお互いに影。
「さよなら」 「身体を大切に」 「忘れないで」


皆、声を押し殺して泣いた。
いつかは、離さなければならない手。
涙しながら、手を離し、おもむろに、身を引いた。



それから、後ずさり、後ずさりして。そして、後ずさりをしながら。

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私は叫んだ。

「さよ~なら~ァ~、ケェ~~ン!!」

「さよ~なら~ァ~、英子サァ~~ン!!」

「さよ~なら~ァ~、和子サァ~~ン!!」


私は、振り返り、振り返り、暗闇の中、星明かりで見えるだろう皆の影の方向に手を振った。
涙で、見えないながらも。



彼方の暗闇からの応答が、だんだん小さくなっていく。そして、やがて、消えた。


「さよなら、下川の山と川!」 「さよなら、小学校時代!」

                  「みんな、みんな、さようなら!」




                         幼・少時代・完



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  私の村社会での幼・少時代の幕は、こうして閉じました。

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(写真は、小学校六年間の通信簿の裏面)


  注)当時の村社会では、お祭りの時などに子供達にもお酒を振る舞われたものです。

  次回からは、中学時代です。