お嬢さんの結婚にしょげた父親

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1979年(昭和54年)頃の父親にとって、それまで同居していたお嬢さんが結婚して、家を去ることは耐えられないことでした。
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さて、今の世の中はどうでしょうか。
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貰われてお嫁に行くという感覚は薄れていますから、昔ほどではないでしょう。逆に、結婚する息子が家を去る事に、母親が泣くかも。

私の履歴書・170

広島営業所の辰巳所長は、度々、私を横に乗せて連れて行きました。島根県の浜田と松江の商業組合、それと山口県の徳山商業組合にです。

浜田や松江で辰巳所長と泊まる所は、何れも古びた商人宿。宿泊費が安いからです。松江温泉などは、所長と泊まったことはありません。

そこで、私一人で何度か山陰にドライブ出張しました。

印象深かったのは一畑薬師(島根県出雲市)
全国から眼の為に参拝に来るのです。京都西山の楊谷寺と同様です。

宿は昔の小学校の木造校舎のような建物です。
朝五時にスピーカーで大声の起床の呼びかけ。びっくり飛び起き。

それから朝風呂。参拝の前に身を清めるのです。処が熱いのなんの。煮えたくったような。でも、じっと耐えて入浴。(後の話では、お湯をかぶるだけだそうです)

熱湯入浴で、身体はちとやそっとでは冷えません。それにくたびれてしまいました。徒歩10分(?)の一畑薬師に行くのを止め、二度寝しました。罰当たりです。


秋は、広島県島根県の県境付近の紅葉には毎年堪能しました。
冬の峠の両側はスキー場。

広島県にまさか10ヶ所もスキー場があるとは。。実は広島は、旧市内を離れましたら、雪国なのです。


さて、狭かった広島営業所の事務所。新たに倉庫付事務所を購入。引っ越しました。初めてこの時、自分の引き出しを持ちました。

その頃、私の課でバンとは別に小型トラックの新車を買いました。マツダ・ボンゴトラック・低床式。1200cc。これに小さなパワーゲートを付けました。

早速、これに部下と二人で乗って、三泊四日の出張。
行き先は、徳山→防府宇部→小郡→下関。実は、兼、観光。

辰巳所長曰く 「広島から山口県に販売に行ったら売れない。特に下関なんかは無理だね」。そう言われますと、逆に燃える。

先ずは販売価格1台30万円程の真っ赤なC機二台をボンゴに積んで広島をスタート。防府で三台販売。即刻、積んである二台納品。

小郡の倉庫に予め広島から輸送してあるC機三台を積む。
宇部で宿泊。

翌朝、前日の未納の一台を納品。「主任、今回の販売目標の五台は軽いものですから、今日はインベーダーゲームをさせて下さい」

息抜きもいいだろう。納品が終わってからは、終日喫茶店インベーダーゲーム。早目に下関の国民宿舎へ。関門海峡を見下ろせる風光明媚な部屋。

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最終日、広島に向けてスタート。
帰路は瀬戸内沿いではなく、内陸を走りました。
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先ずは一台販売に即納。これで四台販売。
残るは一台。
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山口市に入りましたが、全く反応無し。
あわてました。
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山口市内から地方道をひたすら走りました。
車二台が辛うじてすれ違える幅の道。

両側からは、ススキが道路にかぶさっている。
民家の全く見えないそのススキを掻き分けて行くとY字路。

その交差点には雑貨屋。まさに野原の中の一軒家。
休憩に立ち寄り、ついでにC機を提案をしました。

予期に反し、母親と息子の嫁さんが是非との意向。
処が、父親の方は頑として拒否。姿を消しました。

母親と嫁さん、しょげている父親を是非説得して欲しいというのです。
愛娘が、結婚してこの地を去るからです。

「結婚式はいつですか」
「五日後」

「何処へお嫁に行くのですか?」
「徳山へ(同じ山口県の瀬戸内沿い)」

「結構近いじゃないですか」
「女の私達は嬉しいのですが、父親にとっては末娘が離れて行くのは悲しいのね」

「分かりました。やってみましょう。お父さんを呼んでいただけますか?」

母親が、呼んできました。いやいやながらやってきた父親。
「何の用か? もう話すことは無いから帰れ!」

「お父さん、末のお嬢さん、お嫁に行くので寂しくなりますね」
「君には、関係ないことだ」

「お父さん、ちっちゃな時から、どんなに可愛がったことでしょう」
「 - - - - -」

「お父さん、お嬢さん、日に日に美しくなってきたでしょうね」
「 - - - - -」

「お父さん、花嫁姿のお嬢さん、どんなにまばゆいことか」
「 - - - - -」

「お父さん、素晴らしいお嬢さんがいなくなりましたら、心にぽっかりと穴が開きますね」
「 - - - - - - - - - -」

私、大声で絶叫しました。

「お父さん ! この真っ赤な機械をお嬢さんと思い、毎日毎日、磨いてくれませんか!」

「 - - - - - - - - - - - - - - - - -」

「お父さん ! 心を込めて。ゆっくりと、ゆっくりと。白いタオルで !」

「 - - - - - - - - - - - - - - - - -」

長い長い静寂でした。

後、ポツリ一言。

「分かった」

「有難う御座います。これでお嬢さんも安心してお嫁にいけます」

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