警官のピストルの弾が耳元をかすめる

私の履歴書・82

イメージ 1.
昨年10月、元モーニング娘ゴマキの弟・後藤祐樹が電線強盗で捕まりましたね。
.
この電線強盗が、40年前の北井君の話しと同じで驚きました。
.
尚、後藤祐樹は先月実刑が確定。
.
今は、刑務所の中です。






さて、本題へ

《ある告白》

実は、我等三人の会話の中に、他人を入れないのには、訳があったからです。
問題は、北井君(当時26歳)の事です。(今は、人のいい66歳のお爺でしょうね)

或る日、彼は、全国指名手配されていると告白。
ひそひそ話しですからね。だからお手伝いの佳子やガバチョを追い払ったのです。

倉庫破り常習犯。対象は電線。盗品のさばきルートも確立しているとの事。
深夜、十一トンの大型トラックを、とある倉庫に横付けする。

倉庫の扉の南京錠を、両手で操作するケーブルカッターで「パチン」と切断。運転手と二人で、巻き状の電線を肩に担いで運び、トラックに積み込む。積み込みは、三時間位はかかるそうです。


或る深夜、倉庫前で電線を担いでいる時、警官が駆けつけて来たそうです。
「逃げると撃つぞ!」と警官は言うなり、天空に向かって「パ~ン」と一発。

「逃げろ!」 運転手と彼の二人は、一目散。
彼は、自衛隊上がり。大型トラックの下に飛び込み、腹ばいになり両肘で前進。当に実戦!

再度「パ~ン」。二発目は、トラックの下の彼を目がけて撃ったのだ。
「ヒュッ」と風切り音。アスファルトでバウンドした弾丸が彼の耳元をかすめたのですね。

大型トラックの下を反対側に抜け出して、一目散、逃亡。



その彼が、車の免許をとりたいと言うのです。何と言う事かいな!
西川と私は「住居がばれるから、止めたほうが良い」と忠告するも、デルタ自動車学校に通い出しました。

平穏なる日々。話題は、車の運転に関してが中心。仮免も無事何事も無くパス。
いよいよ、本試験の為に、住民票を取りに区役所へ行くように母親に要望。

数日後、実家に電話を入れた彼は飛び上がりましたね。
刑事が、彼の実家に来たと言うのです。足は区役所から付いたのでしょう。

彼は、あたふた。「これから逃げる!」「着替えと金が要る!」
彼は、私に実家まで車で乗せてくれるように要望。危険だが。
西川と私は、有り金を餞別として渡そうとしたが、彼は受け取らない。そういう男である。

私は、北井を横に乗せて、店のマツダファミリアトラック(800cc)で、彼の実家である五条楽園(五条大橋西詰め下る路地・遊郭)に入りました。

この街は、路地が碁盤の目状の当に遊郭。実家は、ここで御茶屋をしていたのです。
家を探している振りをし、先ず様子見でぐるりと一周。

街の入り口の電柱に不自然なアベック二人が立っています。「あれが刑事だ」。
実家の向こう側にも二人。「あれも刑事だ」。


トラックでここに来たのには理由があるのです。
実家の一軒隣に停車。彼は荷台から、空のダンボール箱を持って、実家の横の細い路地に入りました。

この1m程の路地は、勝手口でもあり、路地の奥の家の通路でもありましたね。
つまり、彼は作業帽子を深くかむった荷物の配達人に変身してです。

間も無く、彼はボストンバックを片手に車に帰ってきました。

「どこに行くか?」
「京都駅に行ってくれ!」

京都駅正面に横付け。

「色々すまんかった!」と停まるなりドアを開けあせる北井。
「元気でな!」と既に半身の彼に別れの言葉。

「お~」と彼は後姿で、小走りで駅の雑踏に消えていきました。
私は、暫く、そこに停まって彼の姿が消えた雑踏を凝視していました。

いつもの変わらぬ駅のざわめき。
私は、アクセルをそっと踏みましたね。





追記)2011.12.13
イメージ 2イメージ 3
イメージ 4.
.
.
.
43年ぶりの京都駅です。
.
京都駅の姿・形は変わっても、京都駅前に立つ都度、
彼との別れの場面が眼に浮かびます。
.
眼に浮かぶ彼は、いつも昔のまゝ。
五分刈りの若々しい色白の男。
人なつっこい彼の眼差し。